癒着胎盤スペクトラムの見取り図 ― 第5回:連続体・出生前診断・そして分娩の場
本連載は産婦人科専門医が執筆しています。頻出する略語は記事末尾の付録にまとめ、本文では初出時に展開します。
結論(忙しい先生へ)
帝王切開瘢痕妊娠とPASが連続体をなすこと(同じ経過の早い段階と後の段階と見る枠組み)と、第1三半期のスクリーニングが有効だと言えることは、別の主張です。 連続体そのものは、組織像の側から支持されています(Timor-Tritsch 2014)。血流の側でも、19〜22週になると癒着に至った例と至らなかった例で所見が分かれます。ただし着床から数週のうちに増える胎嚢周囲の血流そのものは、その後の癒着胎盤の診断とは独立していると著者らは書いています(Jauniaux 2022d)。第1三半期の所見で異常侵入胎盤(abnormally invasive placenta:AIP。PASと同義に用いられてきた旧称)を拾えるかを扱ったメタ解析では、胎嚢の低位着床は陽性尤度比7.5、特異度93.4%、第1三半期の胎盤ラクナは診断オッズ比1.0でした。推定の幅も所見によって大きく違います。著者ら自身は「AIPはなお比較的まれな異常であり、帝王切開瘢痕をもつ女性の大多数はAIPにはならない。したがって、そのような第1三半期評価の必要性には疑問がある」としつつ、結びでは第1三半期から前向きに評価する研究が必要だと書いています(D'Antonio 2018)。Delphi調査は11〜14週を推したのが37名のうち4名である一方、帝王切開などの既往が1回以上あれば詳細なPAS超音波評価の適応とすべきという点では合意しています(Jauniaux 2023)。
出生前に診断されていた群では緊急帝王切開が少なかった一方、比べられた二群は同じ背景ではありません。 緊急帝王切開のオッズ比は0.37(95%信頼区間0.21〜0.67)で、帝王切開となった妊婦を分母とすると31.4%対53.5%です。ただし侵入胎盤・穿通胎盤は、出生前診断群の51.4%に対し、診断されていなかった群では19.2%、帝王切開既往は89.4%対35.6%、前置胎盤は86.3%対28.5%でした。交絡を調整した多変量解析を用いた研究は1件もありません。子宮全摘はむしろ出生前診断群で多く、81.6%対61.1%、オッズ比1.98(1.02〜3.83)です。著者らは、この差が侵入胎盤・穿通胎盤の割合の差を反映している可能性と、出生前に診断されていると用手剥離を避けるため子宮外進展の所見がなくても子宮全摘に至りうることを挙げています。著者らは出血量と輸血量の統合平均を術前準備の目安として位置づけ、具体的な準備量を挙げています(本文参照・Sugai 2023b)。出血量はLで示されていますが、赤血球と新鮮凍結血漿は原典の単位表記で、1単位が何 mL かは示されていません。単位数はそのまま自施設に移せません。
出生前に診断されなかった群では、典型的なリスク因子が少なくなっていました。 未経産は、出生前診断群の4.8%に対し、診断されていなかった群では27.9%です。生殖補助医療による妊娠も2.8%対5.5%で、いずれも診断されていなかった群に多く、統計学的にも有意でした。著者らは、リスク因子が乏しい場合には出生前診断がとくに難しくなりうるとして、典型的なリスク因子をもたない妊婦において出生前にPASを疑うことが重要であると結論しています(Sugai 2023b)。日本のガイドラインは、妊娠中にPASを疑い自施設での精査や出血への対応が困難な場合は高次施設へ紹介すること、分娩時にPASを疑った場合は搬送することを、Answer に分けて置いています(CQ307 Answer 2・3・4)。解説では、臨床的PASと診断した場合の搬送と、表3を参考に疑った際の「備えるか搬送も考慮」が書き分けられています(同 解説3)。
分娩の場では、胎盤が剥がれないことも、止血できたことも、それだけでは癒着胎盤の根拠になりません。 剥がれないという記述は胎盤遺残の記述と重なり、止血できた出血は子宮弛緩によるものでもありえます。Jauniauxらは、遺残した胎盤組織が分娩後30分から24時間以内に全量娩出された場合と、漿膜を透かして胎盤が見えるような重症例でも、部分的な筋層切除を行う必要なく胎盤を完全に娩出できた場合の二つを、PASとして報告されるべきではないとしています(Jauniaux 2022e)。国際産婦人科連合(International Federation of Gynecology and Obstetrics:FIGO)の分類が開腹時に癒着型と侵入型を分けるのは、胎盤床の膨隆、青紫色の色調変化、著しい血管増生という肉眼所見と、臍帯を穏やかに牽引したときに子宮が内側へ引き込まれるかどうか(dimple sign)です(FIGO 2019)。日本のガイドラインは、このFIGOの一般的分類を CQ307 の表3 に掲げたうえで、PASのリスクを有し表3を参考にPASを疑った際には、胎盤剥離後の強出血への対応に十分備えるか、胎盤剥離を行わずに高次医療機関への搬送も考慮される、としています(CQ307 解説3)。
帝王切開瘢痕妊娠とPASの連続体 ― それだけでは第1三半期のスクリーニングが有効だとは言えない
帝王切開瘢痕妊娠(cesarean scar pregnancy:CSP)とPASが連続体をなすこと——両者を別の病態ではなく、同じ経過の早い段階と後の段階と見る考え方——を支持する所見は積み上がっています。第1三半期の所見を扱ったメタ解析は、これを第1三半期に目を向ける理由の一つに挙げています。両者がつながっているなら、栄養膜組織による瘢痕への侵入は妊娠の早い時期に始まっている可能性があり、理論上は第1三半期の超音波で検出できる、という筋道です。ただし同じ論文は、すべての型の異常侵入胎盤(abnormally invasive placenta:AIP。PASと同義に用いられてきた旧称)がCSPを前段階とするかは、まだ完全には確かではないとも書いています(D'Antonio 2018)。
Timor-Tritschらは、文献から集めた症例に自施設および他施設から提供された症例を加え、CSPと早期の癒着胎盤(妊娠14〜24週に診断されたもの)あわせて58例を集めました。このうち顕微鏡画像またはスライドが得られた29例を、二人の病理医が、診断名も互いの判定も知らされずに読んでいます。二人は1例ずつ、絨毛が脱落膜を介さずに筋層や瘢痕組織に接しているかを判定し、判定が割れたのは29例中1例でした。全体の一致度は高く、free-marginal kappa(偶然の一致を差し引いた一致度。1が完全な一致、0が偶然と同じ水準)で0.93でした。そのうえで二人とも、臨床情報を伏せて組織像だけを見る限り、CSPの標本と早期癒着胎盤の標本とは実際上区別できないとしています。早期癒着胎盤と診断された標本も、CSPと診断された標本も、同一の組織学的所見を示しました。著者らは、CSPと早期の癒着胎盤は組織学的に区別できず、癒着胎盤に至る連続体の異なる段階を表している可能性がある、と結論しています(Timor-Tritsch 2014)。この報告は第1回でも触れました。
連続体を血流の側から追った研究もあります。Jauniauxらは、二つの大学病院の早期妊娠評価ユニットで診断されたCSPのうち、胎児心拍があり、妊娠中断を選ばずに継続した27例を調べました。診断されたCSP 227例のうち心拍があったのは111例、継続を選んだのは30例で、そこから9〜10週に流産した3例を除いた27例です。対照は、帝王切開既往が1回以上あり、妊娠19〜22週の胎児形態スキャンで前壁の低置胎盤・前置胎盤と診断された27例で、分娩時にPASと診断された例はありません。瘢痕の中ではなく、瘢痕のすぐ上の子宮下部に着床した妊娠と比べるための対照です。後ろ向きの研究で、両群とも6〜10週と11〜14週に超音波を受けており、その記録をあとから解析しています(Jauniaux 2022d)。
妊娠6〜10週の時点で、カラードプラによる血流スコアの平均は、CSP群のほうが有意に高い値でした(P<.001)。スコアは、胎嚢周囲の血流を1=検出されない、2=わずか、3=中等度、4=高血流の4段階で記録したもので、両施設が早期妊娠の合併例に日常的に用いている半定量的な尺度です。CSP群ではスコア4が12例・スコア3が8例だったのに対し、対照群にスコア4はなく、スコア3が3例のみでした。著者らは、このスコアの判定と血管増生の診断が検者に依存することを、研究の限界に挙げています(Jauniaux 2022d)。
この6〜10週の血流について、著者らはこう述べています。
CSPでは、原始胎盤の発育する絨毛と子宮壁外層の大口径血管とが近接することにより、着床から数週のうちに胎嚢周囲の血流が増加する。これらの変化はその後の癒着胎盤の診断とは独立しているが、胎嚢周囲の高速の母体血が過剰であることは、CSPで妊娠喪失率が高いことの説明になりうる(Jauniaux 2022d)
早期の血流亢進そのものは、後にPASとなるかどうかを判定する所見ではない、ということです。妊娠喪失の側の機序として著者らが挙げているのは、次の経路です。正常な子宮内妊娠では、のちに胎盤となる基底板の中心部で、絨毛外栄養膜の栓がらせん動脈の先端を第1三半期の終わりまで塞ぎ、絨毛間腔への流入を制限する殻をつくり、過剰な酸化ストレスから胎児と絨毛組織を守っています。これに対し、流産一般では、その70%超で絨毛外栄養膜の侵入が乏しく、殻が薄く断片化しています。母体血が早期に過剰に絨毛間腔へ入り、二次的に絨毛が変性して、胎盤が子宮壁から剥がれます。著者らの集団では、CSPのおよそ半数が流産として現れており、正常な位置の妊娠よりはるかに多くなっています。ここから著者らは、瘢痕部では放射状動脈と弓状動脈が作り変えられているため、CSPの少なくとも半数では高速の母体血がこの殻に達し、殻の形成を妨げるか、早期に外してしまう、と示唆しています(Jauniaux 2022d)。
時期を進めると、差の出方も変わります。同じ研究で、妊娠11〜14週では胎盤ラクナがCSP群の12例(44%)に認められた一方、対照群には1例もありませんでした。ただし対照群では、27例中9例の胎盤に絨毛間腔のレイクが認められています。いっぽう胎盤下の血管増生には両群で有意差がなく、CSP群51.9%に対して対照群33.3%でした(P=.271)。著者らは、この時期に胎盤下の血管が増えること自体は、胎盤が横へ広がることに伴う生理的な変化であり、CSPでも対照でも同じように起きる、としています(Jauniaux 2022d)。
ラクナかどうかの判定そのものにも、この時期特有の制約があります。著者らは、妊娠の中ほどまでは、ラクナと胎盤レイクの区別が必ずしも明瞭ではない、と書いています。ラクナは、放射状動脈や弓状動脈からの高速の流入によって、一つ以上の分葉(隔壁を含む)の構造が歪んだ結果であり、妊娠が進んで動脈の拡張が続くにつれて目立つようになる、というのが著者らの整理です(Jauniaux 2022d)。
妊娠19〜22週になると、所見は転帰によって分かれます。27例のうち9例は、19〜22週を迎える前に妊娠が終わっています。6例(22.2%)が13〜15週に妊娠中断を選んでおり、うち5例は6〜10週から11〜14週のあいだに大量出血が続いたため、1例は13週に胎児無脳症と診断されたためです。残る2例が子宮破裂、1例が16週1日の後期流産でした。第3三半期まで継続した18例のうち10例が、出生時に前置癒着胎盤と診断されました(単純癒着胎盤4例・侵入胎盤6例)。この10例では8例に胎盤下の血流の亢進が、7例に胎盤ラクナが認められました。癒着に至らなかった残る8例では、血流の亢進が1例、ラクナはありませんでした。筋層の菲薄化(1mm未満)は、癒着に至った10例中7例に対し、至らなかった8例でも3例に認められています(Jauniaux 2022d)。6〜10週と11〜14週の差は、CSP群と対照群のあいだの差でした。19〜22週の差だけは、第3三半期まで継続したCSP 18例のなかで、癒着胎盤に至った10例と至らなかった8例のあいだの差です。第2・第3三半期にPASを示す所見が、第1三半期にも同じ意味をもつとは限りません。
転帰を分けたものとして著者らが挙げているのは、妊娠開始時点の帝王切開瘢痕欠損の残存筋層厚です。この27例では、6〜10週の計測で15例(55.6%)が2mm未満でした。出生時にPASと診断された10例のうち8例は、この時点ですでに2mm未満です。逆の向きから見ると、著者らは考察で、第3三半期まで継続した18例のうち6〜10週に2mm未満だったのは10例で、そのうち9例が出生時にPASと診断されたとしています(PASのうち2mm未満だった数は、結果の項と表3の個々の例では8例、考察では9例です)。さらに、13週6日と15週6日に子宮破裂をきたし、開腹と子宮摘出に至った2例(7.4%)は、いずれも1mm未満でした。子宮破裂の主たる機序は、ニッチの底にあるきわめて薄い瘢痕組織が伸展することではないか、と著者らは述べています。血管変化の強さ、PASの発生、子宮破裂のリスクは、妊娠開始時点の残存筋層厚に依存する、というのが結論です(Jauniaux 2022d)。表3の個々の例には、残存筋層厚3.1mmで侵入胎盤となり子宮全摘に至った例も、0.2mmでもその後の超音波で胎盤下の血管増生やラクナが認められず、部分的な筋層切除ですんだ単純癒着胎盤の例もあります(同)。ただしこれは、CSPと診断された妊娠のなかでリスクを層別化した話で、帝王切開瘢痕をもつ妊婦を広く第1三半期に評価することとは別です。

図1 帝王切開瘢痕妊娠では、着床から数週のうちに胎嚢まわりの血流が増えます。ただしこの変化は、後に癒着胎盤となるかどうかとは独立している、と著者らは書いています。11〜14週では、胎盤ラクナはCSP群にだけ認められる一方、胎盤下の血管増生は胎盤が横へ広がることに伴う生理的な変化として対照群でも増えるため、両群に有意差がつきません。癒着胎盤に至った例と至らなかった例のあいだで所見が分かれるのは19〜22週で、この時期だけは比較の相手が変わり、第3三半期まで継続したCSP 18例のなかで、癒着胎盤に至った10例と至らなかった8例を比べています。同じ所見が、見る時期によって同じ意味をもつとは限りません(Jauniaux 2022d)。
この節の初めに挙げたD'Antonioらのメタ解析が確かめたのは、第1三半期(14週未満)の超音波にAIPを示唆する所見がすでに現れているか、そしてその所見がAIPとどれだけ結びつき、どれだけ予測できるかです(D'Antonio 2018)。
D'Antonioらは、AIPのリスクが高い妊娠551例を扱った7研究を統合しました。第1三半期に認められる所見は、既往帝王切開瘢痕の近くへの胎嚢の低位着床、胎盤ラクナ、筋層の菲薄化、子宮膀胱境界の異常で、最も多いのは低位着床です。分娩時にAIPと確定した117例のうち、いずれかの所見が第1三半期のスキャンで検出されていたのは100例です。確定例を分母にしたこの割合は、7研究を統合した推定では91.4%(95%信頼区間85.8〜95.7)で、11週未満に走査された例に限ると95.1%(75.3〜99.5)、胎嚢の低位着床はAIP全例で見えていました(D'Antonio 2018)。
ただし推定のばらつきは大きく、I²は88.4%です。走査の週数も個々の所見の定義も、研究間で揃っていません。加えて、組み入れ7研究のうち5研究は後ろ向きで、3研究は確定したAIPだけを集めており、AIPに至らなかった妊婦を含みません。著者らは、評価した超音波所見の大半について偽陽性例と真陰性例が無く、特異度は評価できなかったとしており、各研究の症例数がごく少ないことを、この解析の最大の限界に挙げています。第1三半期に低位着床を見つけた妊婦がその後どれだけAIPに至るのかは、この91.4%からは分かりません(D'Antonio 2018)。
所見ごとの推定では、信頼区間の幅が所見によって大きく違います。筋層の菲薄化と子宮膀胱境界の異常は、どちらも2研究からの推定です。それでも前者は66.8%(45.2〜85.2)で研究間のばらつきがなく(I²=0%)、後者は51.8%、その95%信頼区間は0.2〜100.0で、とりうる値のほぼ全域に及んでいます(I²=93.2%)。最も多い低位着床にしても、古典的には外子宮口から5cm未満と定義されてきたものの、組み入れられた研究の多くは低位着床の厳密な定義を示していません(D'Antonio 2018)。
帝王切開既往などAIPのリスクをもつ妊婦を、第1三半期から分娩まで前向きに追った2研究(11〜14週のStirnemannら・9〜14週のRahimi-Sharbafら)では、胎嚢が低く着床していた例はAIPのリスクが有意に高く(オッズ比19.6、95%信頼区間6.7〜57.3)、低位着床単独の感度は44.4%(21.5〜69.2)、特異度は93.4%(90.5〜95.7)でした。低位着床があればAIPの可能性は大きく上がり(陽性尤度比7.5、3.8〜14.9)、無くても大きくは下がりません(陰性尤度比0.6、0.4〜0.9)(D'Antonio 2018)。ただしこれらは、Stirnemannらの95例中1例、Rahimi-Sharbafらの323例中17例という確定例から出た値です(同)。
第2・第3三半期での所見の重みは、そのままでは持ち込めません。胎盤ラクナは第2・第3三半期に診断されたAIPで最も多く検出される所見の一つですが、第1三半期のラクナがあっても、AIPのリスクは上がっていませんでした(オッズ比1.03、95%信頼区間0.2〜4.8)。診断能に置き換えても同じで、感度33.3%・特異度67.5%、診断オッズ比(陽性と陰性を分ける力の指標)は1.0(0.7〜1.6)でした。1.0は、この所見に陽性と陰性を分ける力が無いという値です。著者らは、第1三半期の早い時期にはラクナがまだ少ないか、同定しにくい可能性を挙げています(D'Antonio 2018)。
著者ら自身は、組み入れ研究が用いた「リスク集団」の定め方を、第1三半期の妊婦にそのまま当てはめることはできない、としています。組み入れ研究の「リスク集団」は定め方が研究間で異なるうえ、その判定が第2・第3三半期のスキャンの時点でなされているため、第1三半期の妊婦には臨床的に適用できない、というのが理由です(D'Antonio 2018)。
AIPはなお比較的まれな異常であり、帝王切開瘢痕をもつ女性の大多数はAIPにはならない。したがって、そのような第1三半期評価の必要性には疑問がある(D'Antonio 2018)
ここで疑問視されているのは、帝王切開瘢痕をもつ女性を対象とした第1三半期の評価です。CSPと診断されたあとに胎嚢の位置や残存筋層厚を見ることは、別の問いになります。
そのうえで著者らは、結びで帝王切開既往などAIPのリスクをもつ妊婦を第1三半期から前向きに評価し、早期の所見がリスクの層別化に役立つか、第2・第3三半期の所見と組み合わせて診断精度を上げられるかを確かめる研究が必要だとしています(D'Antonio 2018)。
いつ見るのがよいかについても、D'Antonioらは合意がまだ無いと書いています(D'Antonio 2018)。PASの超音波所見をめぐるDelphi調査(産科超音波画像の国際的な専門家パネル)でも、PASの所見を同定するのに最適な妊娠週数について合意は得られていません。11〜14週を推したのは、37名のうち4名です。ただし同じ調査は、帝王切開・子宮筋腫核出・PASのいずれかの既往が1回以上あれば、詳細なPAS超音波評価の適応とすべきだという点では合意に達しています(Jauniaux 2023)。
連続体そのものは支持されています。CSPと診断されたあと妊娠を継続した場合の転帰も、いま見たCSP 27例に報告されています。第3三半期に至った18例のうち14例(77.8%)が産前出血のため37週未満に分娩し、出生時に前置癒着胎盤と診断された10例のうち8例が一次的な帝王切開子宮全摘に至っています(Jauniaux 2022d)。
より広い集団を扱ったのが、Calìらのメタ解析です。超音波でCSPと診断され待機的管理となった69例(17研究・全CSP 273例中)を統合しました。心拍のあった52例のうち40例(76.9%、95%信頼区間65.4〜86.5)が第3三半期に到達しています。以下の割合は、その転帰を報告した研究だけを統合した推定値です。分母は52例ではなく、転帰によって27例から40例までの幅があります。第1三半期に外科的または内科的な介入を要したのが20.0%(7.1〜37.4)、第1・第2三半期の子宮全摘が15.2%(3.6〜32.8)でした。第3三半期では、39.2%(15.4〜66.2)が重篤な出血をきたし、74.8%(52.0〜92.1)が出生時に手術または病理でAIPと診断され、そのうち約3分の2は穿通胎盤です(69.7%、42.8〜90.1)。第3三半期の子宮全摘は60.6%(36.9〜81.9)でした。出生時にAIPと診断された例のうち90.3%(29例中27例、78.2〜97.8、I²=0%)は、分娩前に診断されています(Calì 2018)。
ただし、この69例が待機的管理となった理由は一つではありません。中絶を希望しなかった例、診断が見逃されていた例、医師の選択による例が混在しています(Calì 2018)。著者らは、この種の研究のエビデンスのレベルは very low(非常に低い) であると述べており、最も重症で症状のある患者はおそらく待機的管理を受けていないだろう、とも述べています(同)。転帰は良い方向に偏って見えている可能性があります。それでも著者らは、CSPの相当な割合が満期あるいは満期近くまで進みうることを踏まえ、妊娠の中断だけが治療選択肢であるべきかには疑問がある、と結論しています(同)。
日本のガイドラインは、CSPをPASと同じ区分に置いていません。CQ307 が挙げるのは帝王切開瘢痕部への胎盤付着であって(表1)、帝王切開瘢痕部妊娠という病態そのものは、CQ307 の本文にも文献にも現れません。産科編2026 でこの病態が現れるのは、いずれも「C 妊娠初期の異常・処置」の CQです。CQ203 は異所性妊娠を着床部位で分類するなかに帝王切開瘢痕部妊娠を挙げ、頸管妊娠とともに名指しして、手術療法のリスク回避のため薬物療法を先行させることもあるとしています(CQ203 解説冒頭・同 解説4)。CQ205 は妊娠12週未満の人工妊娠中絶を扱い、帝王切開既往のある女性では着床部位を確認すること、きわめてまれだが帝王切開瘢痕部妊娠では多量出血をきたしうることを記しています(CQ205 解説1)。妊娠12週未満の切迫流産を扱う CQ206 は、子宮腔内に胎嚢や心拍が確認できた場合の対応として、帝王切開既往女性では瘢痕部妊娠を念頭において胎嚢が瘢痕部や峡部に位置しないことを確認するとしています(CQ206 解説2)。
CSPは「C 妊娠初期の異常・処置」に、PASは「D 妊娠中期・後期の異常・処置」に置かれています。連続体という枠組みで両者を一つの問いにまとめる書き方は、CQ307 には採られていません。CQ307 が精査の起点に置いているのは、帝王切開の既往があり前置胎盤が疑われる場合の、妊娠24〜27週以降です(解説2)。CQ307 の本文と文献には、第1三半期に見るという記述はありません。妊娠初期に瘢痕部を確かめることは、先に見た CQ205・CQ206 の解説に、人工妊娠中絶と切迫流産の管理の文脈で書かれています(CQ205 解説1・CQ206 解説2)。
連続体を認めることと、第1三半期のスクリーニングが有効だと言えることは、別の主張です。
ここまでは第1三半期の話でした。前回までに見たとおり、所見を組み合わせれば診断性能は上がりますが、PASでない例をPASと読み、PASの例を見落とす余地は、どの検査にも残ります。磁気共鳴画像(magnetic resonance imaging:MRI)についても、CQ307 の解説は、増大した子宮と胎盤、癒着部位の位置関係を把握することで子宮切開位置の決定や膀胱周囲の操作といった手術戦略に寄与する可能性があるとしています(CQ307 解説2)。
出生前に診断されていた群と、されていなかった群で、何が違ったか
Sugaiらは、出生前に診断されたPASと、出生前には診断されなかったPASとで母体転帰が違うかを、システマティックレビュー・メタ解析で検討しました。組み入れられたのは31研究で、25研究が後ろ向き、5研究が前向き、1研究が両方です。出生前に診断されていた割合の統合値は53%(95%信頼区間46〜61)です(Sugai 2023b)。転帰や背景の比較に統合された研究は31研究すべてではなく、項目によって5研究から24研究までの幅があります(同)。
「出生前に診断されていた」が何を指すかも、研究によって同じではありません。出生前診断の画像に超音波だけを用いたのは4研究、19研究が超音波とMRIを併用し、残る8研究は診断方法を特定していません。出生時の最終診断も、病理検査によるものが10研究、臨床診断によるものが3研究、両方を用いたものが17研究で、1研究は最終診断の方法を記していません(Sugai 2023b)。
緊急帝王切開のオッズ比は0.37(95%信頼区間0.21〜0.67)で、出生前に診断されていた群のほうが有意に少なくなっています。帝王切開となった妊婦を分母とすると、出生前診断群の31.4%に対し、診断されていなかった群では53.5%でした。出血量は平均差−0.65L(−1.17〜−0.13、I²=92%)、赤血球輸血量は平均差−1.96単位(−3.25〜−0.68)で、いずれも出生前診断群のほうが少なくなっています(Sugai 2023b)。出血量と輸血量の結果が研究ごとに大きくばらついた理由の一つとして、著者らは、出生前に診断されたPASでは集学的施設での厳密な管理のために出血量が多めに見積もられうること、血行動態が不安定になればすぐに対応して早めに輸血するため輸血量が増えうることを挙げています(同)。
統合平均でみると、出血量は出生前診断群で2.27L(1.82〜2.73)、診断されていなかった群で2.99L(2.38〜3.62)、赤血球輸血量はそれぞれ4.13単位(2.98〜5.28)と6.51単位(4.72〜8.30)、新鮮凍結血漿は2.37単位(1.16〜3.59)と3.76単位(2.06〜5.45)です。著者らはこの統合平均を術前準備の目安になるものとして位置づけ、信頼区間まで考えれば、出生前に診断されたPASでは3Lの出血を想定し、少なくとも赤血球6単位と新鮮凍結血漿4単位を準備しておくべきだ、としています(Sugai 2023b)。赤血球も新鮮凍結血漿も原典の単位表記で、1単位が何 mL にあたるかは原典に示されていません。組み入れられた31研究に、日本の研究は含まれていません(同)。
著者ら自身は、出生前に診断されたPASで転帰が良かったことが、出生前診断の必要性を際立たせる、と結論しています(Sugai 2023b)。
ただし、比べられた二群は、同じ背景の妊婦ではありません。侵入胎盤・穿通胎盤は、出生前診断群の51.4%に対し、診断されていなかった群では19.2%でした。帝王切開既往は89.4%対35.6%、前置胎盤は86.3%対28.5%で、いずれも出生前診断群に有意に多くなっています。これらの割合は、研究ごとの推定を統合した値ではなく、報告のあった研究の実数を合わせたものです。最大の研究は単施設の1,178例で、出生前に診断されていたのは5.09%でした(同)。著者らは、この母体背景を調整した多変量解析を用いた研究が1件も無かったと述べており、バイアス評価でも、交絡因子については大半の研究がリスク高と判定されています(Sugai 2023b)。
逆向きの差もあります。未経産は、出生前診断群の4.8%に対し、診断されていなかった群では27.9%(I²=0%)、生殖補助医療による妊娠は2.8%対5.5%(I²=3%)で、いずれも診断されていなかった群のほうが多くなっています。生殖補助医療を報告したのは5研究で、実数は320例中9例と1,257例中69例です(同)。差がつかなかった背景もあり、子宮手術の既往(主に掻爬と子宮筋腫核出)は31.8%対34.1%、オッズ比0.81(95%信頼区間0.51〜1.28)です(Sugai 2023b)。出生前に診断されていた群の大半は、帝王切開既往と前置胎盤という典型的なリスク因子をもつ妊婦でした。診断されていなかった群では、その割合が大きく下がります。
診断のつきやすさ自体も、この背景で決まる可能性があります。著者らは、帝王切開既往と前置胎盤のある妊婦ではPASの有病率が高く侵入胎盤の合併も多いために、臨床医がそうした妊婦を特に注意して評価しており、軽微な超音波所見でもPASを疑う方向に偏りうる、と述べています。臨床医に妊婦の背景を伏せると出生前診断の感度が下がる傾向があるという報告が、その裏づけとして挙げられています(Sugai 2023b)。出生前に診断されていた群は、診断のつきやすい背景をもつ群でもあります。先の緊急帝王切開のオッズ比0.37は、その群と、そうでない群とを比べた値です。
出生前診断群で少なかったのは出血量と赤血球輸血量までで、輸血全般が少なかったわけではありません。新鮮凍結血漿は平均差−1.16単位(−2.56〜0.24)、血小板濃厚液は−0.29単位(−2.17〜1.59)で、いずれも信頼区間が0をまたいでいます(Sugai 2023b)。膀胱損傷・尿管損傷・凝固障害・再手術・集中治療室入室・母体死亡にも、両群の有意差は示されていません。ただし著者らは、尿路の損傷・凝固障害・母体死亡については出生前診断群のほうが高い傾向に、再手術と集中治療室入室については低い傾向にあったと述べています(尿管損傷のオッズ比1.96、0.96〜4.01/母体死亡2.18、0.37〜12.92・同)。
出生前診断群のほうが多かった項目もあります。子宮全摘は、出生前に診断されていた群で81.6%、診断されていなかった群で61.1%に行われ、オッズ比は1.98(95%信頼区間1.02〜3.83、I²=69%)でした(Sugai 2023b)。著者らは二つの説明を挙げています。ひとつは、先に見た侵入胎盤・穿通胎盤の割合の差を反映しているのかもしれない、というものです。もうひとつは、出生前に診断されていると胎盤の用手剥離を避けるため、子宮外への進展を示す所見がなくても子宮全摘に至りうる、というものです。著者らは後者について、過剰治療かもしれないが、出血を制御するために必要な手段である、と述べています(同)。「出生前に診断すれば子宮を残せる」という向きの結論は、この解析からは出てきません。
ここまでの数値には、出版バイアスの検定も添えられています。転帰では、Egger検定でバイアスが示唆された5項目のうち、群間に差がついていたのは子宮全摘と赤血球輸血量で、新鮮凍結血漿輸血量・再手術・母体死亡はもともと差の出ていない項目です。出血量と緊急帝王切開には、出版バイアスは示唆されていません(Sugai 2023b)。先に見た術前準備の目安のうち、赤血球輸血量はこのバイアスが示唆された側にあたります。
Sugaiらの結論は、誰が診断されにくいかにも踏み込んでいます。PASのおよそ半数は出生前の診断が難しく、診断されなかった群には帝王切開既往や前置胎盤といった典型的なリスク因子が比較的少なかったことから、リスク因子が乏しい場合には出生前診断がとくに難しくなりうると述べ、そのうえで、典型的なリスク因子をもたない妊婦において出生前にPASを疑うことが重要である、としています。診断を助けるバイオマーカーについては、現時点で臨床使用は推奨されないとし、今後は高感度のバイオマーカー・高品質の画像・リスク因子の層別化によって出生前診断を強化すべきだ、と記しています(Sugai 2023b)。
先に見た生殖補助医療による妊娠の差(2.8%対5.5%)についても、著者らは説明を置いています。生殖補助医療による妊娠は前置胎盤を伴わないPASと結びつきやすく、前置胎盤を伴わないPASは分娩前の診断が難しい——だから生殖補助医療による妊娠では出生前に診断されにくいのではないか、という筋道です。そのうえで、生殖補助医療による妊娠を管理するときは、胎盤の評価を注意深く行う必要がある、と述べています(Sugai 2023b)。
分娩前に診断されないままの割合は、どの研究群を見るかで変わります。Jauniauxらは、国レベルで標準化されたスクリーニングの方法は現在なく、高所得国の人口ベース研究において、癒着胎盤スペクトラムが分娩前に診断されないままである割合は2分の1から3分の2のあいだだと示されている、としています(Jauniaux 2019)。Jauniauxらの2022年のオピニオン論文では、帝王切開既往があり前壁の低置胎盤・前置胎盤を呈する妊婦が、国レベルのスクリーニング計画の第一の対象であるべきだ、とされています(Jauniaux 2022e)。
CSPの待機的管理を扱ったCalìらのメタ解析(Calì 2018)は、CSPと診断されたあと妊娠を継続する場合の要点として、最適な管理がなお定まっていないこと、短期・長期のリスクを説明すること、胎嚢の位置と残存筋層厚を評価してAIPのリスクを判定することを挙げています。そのうえで、こう述べています。
最後に、重症AIPの外科的管理に専門性のあるセンターでの分娩が手配されるべきである(Calì 2018)
日本のガイドラインは、妊娠中と分娩時を分けて Answer に置いています。妊娠中については、PASを疑い自施設での精査や出血への対応が困難な場合は高次施設へ紹介すること、精査の結果PASに対する集学的治療が困難な場合は実施可能な施設へ適切な時期に紹介し周産期管理を行うことが挙げられています(CQ307 Answer 2・4)。分娩時については、子宮手術の既往と凍結胚移植妊娠(ホルモン補充周期)が前置胎盤を伴わない場合にもリスク因子であることを念頭に置き、分娩時にPASを疑った場合は搬送する、とされています(同 Answer 3・いずれも推奨レベルC)。
分娩の場で何を癒着胎盤と呼ぶか ― 剥がれないことも、止血できたことも、それだけでは根拠にならない
出生前にPASと決めきれなかった妊婦が、分娩の場に来ます。そこでのPASは、胎盤が剥がれないという形をとります。癒着部は出生時に自然には娩出されず、娩出しようとすれば、子宮深部の血管や癒着部周囲の新生血管から、急速に制御しがたい出血をきたしうる——FIGOの分類論文はそう記しています(FIGO 2019)。
FIGOの分類は、癒着型(Grade 1)には経腟分娩時と開腹時の両方に、侵入型(Grade 2以降)には開腹所見に、臨床基準を置いています。癒着型の臨床基準は二つで、オキシトシンの投与と穏やかな臍帯牽引では胎盤が剥離しないことと、用手剥離を試みると胎盤の着床部位から大量出血し、機械的または外科的な処置を要することです。開腹した場合はこれに加えて、胎盤床の上に明らかな膨隆がなく、子宮の表面を貫いて侵入している胎盤組織も認められず、新生血管は無いか軽度にとどまります。侵入型ではここに、胎盤床の膨隆と青紫色の色調変化、著しい血管増生(子宮漿膜に密に絡み合った血管床、または頭尾方向に平行して走る複数の血管)が加わります。子宮漿膜を貫いて侵入している胎盤組織は認められず、臍帯を穏やかに牽引すると胎盤が剥離せずに子宮が内側へ引き込まれます(dimple sign)(FIGO 2019)。
癒着型の組織学的基準は、子宮摘出標本の胎盤床から採った検体で、絨毛組織と筋層のあいだの脱落膜が広い範囲で失われ、絨毛が表層筋層に直接付着していることです。ただしこの診断は娩出された胎盤組織だけでも、胎盤床のランダム生検でも下せない、と付されています(FIGO 2019)。
胎盤が剥がれないという所見だけでは、癒着胎盤の根拠になりません。Jauniauxらは2022年のオピニオン論文で、癒着型の臨床像として流通してきた記述——胎盤を断片的に取り出すこと、積極的管理にもかかわらず分娩後20〜30分で自然剥離がないこと、経腟分娩後に掻爬を要する胎盤の遺残断片、帝王切開時の胎盤除去後の付着部位からの大量出血——を並べたうえで、こう書いています(Jauniaux 2022e)。
これらの記述は、胎盤遺残の記述と類似している。胎盤遺残で起きているのは、癒着していない胎盤が分娩後の頸管の収縮によって子宮内に閉じ込められているだけである(Jauniaux 2022e)
この重なりは、基準の由来にさかのぼります。癒着胎盤の最初のコホート研究とされるのは1937年のIrvingとHertigの報告で、20例の臨床・病理記述と、1935年以前に報告された86例の文献レビューからなります。臨床的には、容易に剥離しない子宮壁への胎盤の付着、または胎盤床からの出血として、組織学的には胎盤と筋層のあいだの脱落膜層・Nitabuch層の欠如として特徴づけられました。この20例のうち、帝王切開の既往があったのは1例です。86例のレビューでも、既往のあった患者は1例でした。当時の素因として挙げられていたのは、用手剥離の既往と、強い子宮内掻爬です。抗生物質のない時代、これらによる子宮壁の損傷はしばしば子宮内膜炎で悪化し、表層筋層に限局した瘢痕をつくったと考えられる、と著者らは書いています。複数回の帝王切開がつくる広範な筋層瘢痕とは比較になりません(FIGO 2019)。
FIGOの分類論文は、こうした1920年代から1930年代の基準が主に癒着型の症例に基づくものでありながら、その後もコホート研究の著者たちに用いられ続けてきた、としています。癒着型と侵入型は転帰も必要な管理も大きく異なるため、これは誤った結論につながりうる、というのが著者らの指摘です(FIGO 2019)。
Jauniauxらが「PASとして報告すべきでない」としているのは、二つの場合です(Jauniaux 2022e)。一つは、遺残した胎盤組織が一定の時間内に全量娩出された場合です。
遺残した胎盤組織が、一塊であれ複数の断片であれ、分娩後30分から24時間以内に全量娩出された場合、これらの症例はPASとして報告されるべきではない(Jauniaux 2022e)
もう一つは、穿通胎盤に見えても、筋層を切らずに胎盤を娩出できた場合です。Jauniauxらは、新鮮検体を用いた自らの検討で全層性の絨毛組織を認めず(Jauniaux 2022e)、穿通胎盤の症例報告を組織像つきで集めた自分たちのシステマティックレビューでも、絨毛が漿膜を含む子宮壁の全層に浸潤する、あるいはそれを越えるという状態を裏づける組織学的証拠は見つからなかったとしています。自分たちのデータは、重症のPASで子宮下節の離開部の漿膜を透かして胎盤が見えているような症例であっても、絨毛組織はほぼ常に薄い瘢痕の殻の内側に収まっており、穿通胎盤という誤った診断を導くのは外科的な操作と組織の剥離のほうだ、という見方を支持する、としています。続けて、
これらの症例で、癒着した絨毛組織を除去するために部分的な筋層切除を行う必要なく胎盤を完全に娩出できるのであれば、PASとして報告されるべきではない(Jauniaux 2022e)
開腹して穿通胎盤に見えたときの鑑別も、FIGOの分類論文が明示しています。不必要に複雑な手術を避けるため、臨床医は穿通胎盤と、いわゆる uterine window——帝王切開瘢痕の離開部で、その下に正常な胎盤形成があり、胎盤が離開部から突き出て見えることもある——を区別すべきだ、とされます。uterine window では、周囲の子宮組織は比較的正常に見え、肉眼的な血管の変化(血管増生や太い血管)も胎盤の膨隆もありません。そして、子宮縫合を終える時点で、あるいは24〜48時間以内に胎盤が全体としてまたは断片として用手的に娩出されたのであれば、それは癒着胎盤ではなかった可能性が高い、と記されています(FIGO 2019)。
止血できたことも、癒着胎盤の根拠にはなりません。非癒着の胎盤遺残の用手剥離もまた、二次性の子宮弛緩によって重篤な出血をきたしえます。先に見た癒着型の基準が指しているのは胎盤の着床部位からの出血で、こちらは子宮弛緩による出血です。ただしその場合、圧迫縫合や子宮内バルーンといった保存的な手技で出血を制御できることが、しばしばあります。これらの症例をPASの管理成功例として報告すべきではない、というのが同じ段落の結びです(FIGO 2019)。
ここで、同じ所見が別の役を与えられていることを断っておきます。用手剥離を試みたときの着床部位からの大量出血は、FIGOの癒着型の臨床基準の一つであると同時に、Jauniauxらが「胎盤遺残の記述と類似している」と書いた記述の一つでもあり(「帝王切開時の胎盤除去後の付着部位からの大量出血」)、1937年の基準(「胎盤床からの出血」)でもあります。いずれも胎盤の付着部位からの出血を指しています。ただし、剥離操作との前後関係や、出血の程度、追加の処置を要するかどうかは、原典ごとに同じではありません。別の役を与えられているのは、追加の止血処置も同じです。日本のガイドラインは CQ307 の表3 で癒着型を「用手剥離によって大量出血を生じ子宮内バルーンなどの追加止血処置を要する」と訳しています(CQ307 表3)。いっぽうFIGOの同じ論文は、非癒着の胎盤遺残で圧迫縫合や子宮内バルーンが奏功した例をPASの管理成功例として報告すべきではない、としています。どちらの出血なのかを分娩の場で見分ける手がかりは、これらの原典に示されていません(FIGO 2019・Jauniaux 2022e)。
この区別は、言葉の問題にとどまりません。FIGOの分類論文は、癒着型と侵入型を区別することが、疫学の正確な評価にも、病態の理解にも、そして何より、よりよい管理戦略の開発にも直接影響する、と述べています。そのうえで別の論点として、胎盤遺残の症例を癒着胎盤あるいは morbidly adherent(病的に付着した、の意。19世紀に胎盤遺残を指して使われた語)と名づけることが過剰診断につながり、過剰診断は治療の判断に影響しうるもので、多くの患者にとっての過剰治療と診断に関連した不安を招く、としています(FIGO 2019)。
FIGOの分類には、分類(classification)であって病期分類(staging system)ではない、という断りが付いています。がんに使われている用語と区別するためだ、と明記されています(FIGO 2019)。
区別が進みにくい理由も、同じ論文が挙げています。組織診断は臨床診断を確認する基準とされながら、癒着型や保存的に管理された症例ではしばしば得られません。加えて、がんの病期分類と違い、PASを後ろ向きに臨床的あるいは病理学的にグレード分けしても、患者のその後の人生に直接の影響は無い。これらが重なって、癒着型と侵入型を正確に区別することへの関心が臨床医にも病理医にも乏しく見え、多くの施設に訓練を受けた周産期病理医もいない、という説明です(FIGO 2019)。実際、出生前に診断されたPASの80〜90%は外科的に管理されるものの、分娩前後の子宮摘出(原典の語は peripartum hysterectomy)のあとに絨毛の付着や侵入の範囲を報告していない論文がおよそ半数ある、とも記されています(同)。
誤分類がどこで起きるかについて、Jauniauxらは経路を書いています。現行の臨床分類は確証バイアスを受けやすく、術者は出生前の画像で報告された内容を追認しやすく、病理医は術者が報告した内容に基づいて診断する。その影響が最も大きいのはスペクトラムの両端で、胎盤遺残と、帝王切開後の子宮下節のリモデリングが、PASと誤って診断される、としています(Jauniaux 2022e)。
同じ論文は、組織診断の側にも制約があると書いています。Jauniauxらは、現行の組織学的基準は病態を正確に反映しておらず、臨床転帰との相関も限られている、と結論しています(Jauniaux 2022e)。検体の側にも制約があり、外科チームから届く標本は体内にあったときの病変を表していないことが多く、子宮摘出標本の多くは分娩時に胎盤を取り除こうとした操作で変形して届くため、肉眼での観察も癒着部の正確なサンプリングも大きく制限される、としています(同)。
この二つの論文は同じ筆頭著者によるものですが、穿通胎盤の扱いでは食い違っています。2019年のFIGOの分類は、Grade 3 の組織学的基準を子宮漿膜の中にある、あるいは漿膜を破って外に出ている絨毛組織と定義しています(FIGO 2019)。2022年のオピニオン論文は、自分たちの検体では漿膜の内部にも外にも絨毛組織を見つけなかったとし、新しい分類と記述は「侵入性」の絨毛組織という概念を捨てるべきだとしています(Jauniaux 2022e)。本稿はこの節で両方を引いていますが、穿通胎盤の組織学的な定義について、この二つは一致していません。
疫学の側からも、同じところが指摘されています。Jauniauxらのシステマティックレビューでは、組み入れた研究の3分の1を超える数が、出生時の診断に用いた臨床基準を記載していません。また、侵入型の存在を術者に知らせるはずの子宮血管の解剖学的変化について報告した研究は、1つもありませんでした。絨毛の侵入の深さについて詳細な組織学的データを報告したのは10研究で、その757例の内訳は癒着型62.5%、侵入型15.4%、穿通型22.1%でした(同)。PASの有病率が不釣り合いに高く、分娩前後の子宮摘出の率が低い集団がいくつかあることを、著者らは胎盤遺残に関する誤分類が多いことの示唆としています(Jauniaux 2019)。
日本のガイドラインは、分娩の場でPASを疑ったときの対応を、CQ307 の解説に書いています。そこでは、前置胎盤を伴わないPASを分娩前に予測して高次医療機関へ紹介することは困難であり、したがって分娩時に臨床的PASと診断した場合は早急に対応可能な施設に搬送することが望まれる、としています。分娩中もしくは分娩直後にPASを疑う場合もありうるとして、FIGOが提唱するPASの一般的な分類(表3)を掲げたうえで、PASのリスクを有し表3を参考にPASを疑った際には、胎盤剥離後の強出血への対応に十分備えるか、胎盤剥離を行わずに高次医療機関への搬送も考慮される、と記しています(CQ307 解説3)。
前置胎盤を伴わないPASが分娩前に診断されにくいこと、そしてこのPASが誰に起こりやすいかは、第1回で扱いました。この回で足せるのは、その人たちが分娩の場に現れたときに、何をもって癒着胎盤と呼び、何をもって呼ばないかです。呼び名が決まらないうちに、備えるか高次医療機関へ送るかを選ぶことになります。
次回は、疑ったあとにどう産むか——分娩の時期と場所の設計、多職種での備えを扱います。
付録:本文で用いた略語
PAS — placenta accreta spectrum(癒着胎盤スペクトラム)
AIP — abnormally invasive placenta(異常侵入胎盤。PASと同義に用いられてきた旧称)
CSP — cesarean scar pregnancy(帝王切開瘢痕妊娠)
MRI — magnetic resonance imaging(磁気共鳴画像)
FIGO — International Federation of Gynecology and Obstetrics(国際産婦人科連合)
I² — メタ解析における研究間の異質性の指標
参考文献
本文中の(著者 年)は下記に対応します。同一著者・同一年の文献の記号は、連載を通して同じ文献が同じ記号を指すよう、前の回で付した記号を引き継いでいます。第1回で a〜c を用いた Jauniaux 2022、第2回で用いた 2022e に加え、本稿では 2022d を新たに充てました。2023b(PMID 37865220)は、第1回で(Sugai 2023)とした文献(PMID 37211089)とは別の菅井らの報告です。また、2019年の Jauniaux らの論文は本稿に2本あり、有病率のシステマティックレビューを(Jauniaux 2019)、FIGO の分類論文を(FIGO 2019)としています。
Timor-Tritsch IE, et al. Cesarean scar pregnancy and early placenta accreta share common histology. Ultrasound Obstet Gynecol 2014;43:383-395. PMID 24357257 —(Timor-Tritsch 2014)
Jauniaux E, et al. Development of the utero-placental circulation in cesarean scar pregnancies: a case-control study. Am J Obstet Gynecol 2022;226:399.e1-399.e10. PMID 34492222 —(Jauniaux 2022d)
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Jauniaux E, et al. Modified Delphi study of ultrasound signs associated with placenta accreta spectrum. Ultrasound Obstet Gynecol 2023;61:518-525. PMID 36609827 —(Jauniaux 2023)
Calì G, et al. Outcome of Cesarean scar pregnancy managed expectantly: systematic review and meta-analysis. Ultrasound Obstet Gynecol 2018;51:169-175. PMID 28661021 —(Calì 2018)
Sugai S, et al. Comparison of maternal outcomes and clinical characteristics of prenatally vs nonprenatally diagnosed placenta accreta spectrum: a systematic review and meta-analysis. Am J Obstet Gynecol MFM 2023;5:101197. PMID 37865220 —(Sugai 2023b)
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Jauniaux E, et al. FIGO classification for the clinical diagnosis of placenta accreta spectrum disorders. Int J Gynaecol Obstet 2019;146:20-24. PMID 31173360 —(FIGO 2019)
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日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会 編.産婦人科診療ガイドライン 産科編 2026.CQ203・CQ205・CQ206・CQ307 —(CQ番号で表記)
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