癒着胎盤スペクトラムの見取り図 ― 第4回:問いを変えると、MRIの評価が変わる
本連載は産婦人科専門医が執筆しています。頻出する略語は記事末尾の付録にまとめ、本文では初出時に展開します。
結論(忙しい先生へ)
MRIで認めた所見の数は、母体の周産期転帰と有意に関連していました。 Bourgiotiらは、妊娠第3三半期の前置胎盤100例(術中にPASが確認されたのは72例)で、あらかじめ列挙した15所見のうち読影で記録された所見の数をスコアとし、母体と新生児の周産期転帰を予測するかを検討しました。母体周産期有害イベントを構成するのは、急な分娩開始・手術時間の延長・子宮摘出・大量出血・膀胱の修復・集中治療室入室の6つです。3所見以上では、少なくとも1つの母体周産期有害イベントのオッズ比が19.08(95%信頼区間6.05〜60.13)。術中推定出血量2,000mL超と定義された大量出血については、8所見以上でオッズ比105.00(20.26〜544.22)でした(Bourgioti 2019)。ただし閾値は転帰ごとに別に選ばれており、値の大小を転帰のあいだで比べる読み方はできません。6つのうち、性器出血で始まる急な分娩開始だけは、スコアでも個々の所見でも予測されていません(同)。
新生児の周産期転帰については、有意な関連は個々の所見にとどまりました。 早産(P=0.558)、低出生体重(P=0.097)、5分後Apgarスコア(P=0.078)のいずれについても、所見数のスコアと有意な関連は示されていません。一方、低出生体重はT2強調画像の胎盤内暗帯・筋層の菲薄化(断裂を伴うもの)・子宮の膨隆などと有意に関連しました(いずれもP=0.017〜0.045)(Bourgioti 2019)。
読影の標準化についても合意文書が出ていますが、示されたのは合意であって実測の精度ではありません。 腹部放射線学会(SAR)と欧州泌尿生殖器放射線学会(ESUR)の合同作業部会(放射線科医21名)は、80%以上が賛成すれば「推奨」、80%以上が反対すれば「非推奨」、どちらにも達しなければ「不確実」とする手続きで、11所見のうち7つを「推奨」、4つを「不確実」に分類しました。所見について「非推奨」となったものはありません。撮像の最適な時期は妊娠28〜32週とされています。構造化レポートには、この11所見に加えて浸潤の深達度・局在・子宮外への進展の記載も推奨しています(Jha 2020)。
2025年の二つの総説は、Einersonらの一つの報告を引用しながら、MRIに別の位置づけを与えています。 Einersonらは、超音波の所見または臨床的にPASが疑われ、MRIも受けた米国2施設の78例で、MRIが臨床管理を変えうる診断の変更をもたらしたのは28例(36%)、そのうち13例ではMRIのほうが誤っていた、と報告しました(Einerson 2018)。Jauniauxらはこれを結論の手前に置き、MRIは出生前スクリーニングに役割をもたず、臨床所見と超音波所見でPASの確率が高い患者への補助としての使用も各国および国際的なガイドラインにより推奨されていない、としています。Jauniauxらが出典として挙げた3つのガイドラインに、日本のガイドラインは含まれていません(Jauniaux 2025)。Wallerらは、MRIが超音波を超えて診断精度を改善することは示されていないが、超音波と併用すれば診断精度の改善に有用でありうるとし、この報告は注意書きに置いています(Waller 2025)。
産科ガイドライン2026 CQ307 がMRIに与えているのは、超音波を超える診断精度ではなく、新たな情報と手術戦略への寄与の可能性です。 CQ307 は、超音波でPASを疑う所見が認められた場合にMRIを考慮するとし、その有用性は診断精度において十分妥当なものだと記しています。MRIの診断精度が超音波検査と比べより高いということではないが、超音波に引き続いてMRIを実施することにより所見の変化や組織特異度が高いことによる新たな情報を得られる可能性があるとし、また、増大した子宮と胎盤、癒着部位の位置関係を把握することによって、子宮切開位置の決定、膀胱周囲操作などの手術戦略に寄与する可能性があると結んでいます(CQ307 解説2)。
問いの立て方を変えると、何が見えるか
Bourgiotiらは、問いの立て方そのものを変えています。妊娠第3三半期の前置胎盤100例を対象に、MRI所見が母体と新生児の周産期転帰を予測するかを検討しました。術中にPASが確認されたのは、100例中72例(単純癒着胎盤・侵入胎盤31例、穿通胎盤41例)です。原典は前置胎盤の100例を、第2三半期のルーチンの超音波でPASを疑う所見が認められた60例と、認められなかった40例に分けています。紹介された妊婦のうち5例は、閉所恐怖3例と肥満2例のため撮像に進めていません。MRIは平均32.5週(SD 3)で撮られ、全例がMRIから6週以内(平均4週)に帝王切開を受けています。この集団では、分娩時の血管内治療も、胎盤を遺残させる保存的管理も行われていません(Bourgioti 2019)。
著者らは、この研究の位置づけについても書いています。異常な胎盤付着の診断のためにMRIのスコアを提案した報告はあるが、それらのスコアと妊娠転帰の不良との関連は検証されていない、というものです。そのうえで、近年の報告をひとつ挙げています。胎盤浸潤の診断の確からしさに応じて、MRIレポートにスコアを与える方法を記述したものです。そこで作られたMRIスコアは、出血に関連する母体合併症と相関しなかった、と著者らは述べています(Bourgioti 2019)。
この研究のスコアは、PASを示すとされる所見をあらかじめ列挙し、読影で記録された所見を加算したものです。所見ごとの重みは付けられていません——重みを付けると組み合わせが膨大になり実用的でなくなるから、というのが著者らの説明です(Bourgioti 2019)。
スコアに含めるのは、筋層の菲薄化(外側筋層のT2低信号の断裂を伴うもの)、胎盤の不均一、T2強調画像の胎盤内暗帯、T1強調画像の高信号巣、子宮の膨隆、胎盤内の血管増生、胎盤辺縁の凹凸、頸管内への胎盤の突出、子宮傍組織の胎盤腫瘤、膀胱壁のT2低信号の消失、膀胱内腔の腫瘤、膀胱ドームのテント化、そして子宮漿膜の血管増生、膀胱子宮窩の血管増生、子宮傍組織の異常血管です。スコアに含めるのはこの15所見です(Bourgioti 2019)。
母体周産期有害イベントは、急な分娩開始(性器出血によるもの)・手術時間の延長(60分超)・子宮摘出・大量出血・膀胱の修復・集中治療室(intensive care unit:ICU)入室の6つです。このうち手術時間と大量出血については、閾値をどこに置いたかの根拠が補足資料に示されています。経験のある産科医が合併症のない帝王切開を行うときの平均手術時間を約45分とみて、総手術時間60分超を延長としました。大量出血は、合併症のない帝王切開でも推定出血量が1,000mLに達しうるとして、術中推定出血量2,000mL超と定義されています。ICU入室は、血行動態が不安定で厳重な監視を要するとき、または術中に大きな合併症——大量出血・輸血、子宮摘出、膀胱の修復——があったときと定義されています(いずれも Bourgioti 2019・Supporting Information S2)。このうち最も多かったのは、ICU入室が63例、手術時間の延長が61例です。6つの少なくとも1つが起きたのは、100例中75例でした(同)。
図1に並ぶのは、転帰ごとに、それが起きた症例と起きなかった症例をもっともよく分ける所見数です。膀胱の修復が6、子宮摘出が7、大量出血と広範な膀胱修復が8、手術時間の延長・ICU入室・母体周産期有害イベントの少なくとも1つは、いずれも3でした。著者らは、この3・6・7・8をそのまま区切りに使って、オッズ比も求めています。3所見以上では、少なくとも1つの母体周産期有害イベントのオッズ比が19.08(95%信頼区間6.05〜60.13)。大量出血・子宮摘出・膀胱の修復・広範な膀胱修復については、3所見以上でのオッズ比は算出されていません(原典の脚注は Not computed due to no distribution としています)。3所見以上で算出されているのは、この複合転帰のほかに、手術時間の延長の41.33(11.93〜143.19)とICU入室の14.32(5.21〜39.40)です(Bourgioti 2019)。
6は、図1にあるとおり膀胱の修復(軽い修復を含む33例)をもっともよく分ける値ですが、著者らはこれを他の転帰にも当てています。大量出血については、もっともよく分ける8所見以上でのオッズ比が105.00(20.26〜544.22)。6所見以上で区切っても90.93(11.34〜729.23)でした。子宮摘出・広範な膀胱修復についても、6所見以上でオッズ比が有意になっています(Bourgioti 2019)。
これらのオッズ比は転帰ごとに別の解析で、閾値も転帰ごとに選ばれています。値の大小を転帰のあいだで比べる読み方はできません。同じ転帰の内側でも、閾値を上げるとオッズ比が下がることがあります。手術時間の延長では、6所見以上の54.72(7.04〜425.10)が最大で、8所見以上では30.18(3.89〜234.14)でした。そのうえで著者らは考察の冒頭で、3所見以上が母体周産期有害イベントの少なくとも1つと、6所見以上が大量出血・子宮摘出・広範な膀胱修復といった大きな術中合併症と強く関連するとしています。ただし、大量出血・子宮摘出・広範な膀胱修復を6所見以上で切ったときの感度・特異度は示されていません(Bourgioti 2019)。

図1 ROC(receiver operating characteristic、受信者動作特性)解析が選んだ閾値と、その感度・特異度です。母体の転帰7つを、閾値の小さい順に並べています。急な分娩開始は、原典が閾値も感度・特異度も算出していないため入っていません。広範な膀胱修復は、膀胱切開または膀胱部分切除を要したもので、膀胱の修復33例の内数です(Bourgioti 2019)。
母体周産期有害イベントを構成する6つの転帰のうち、閾値が算出されなかったのは急な分娩開始(19例)ひとつです。所見数のスコアはこの転帰について有意な予測能を示さず、曲線下面積(area under the curve:AUC)は0.45(95%信頼区間0.30〜0.59、P=0.490)でした。個々の所見でみても、急な分娩開始と関連した所見はひとつもありませんでした。また著者らは、緊急の分娩が比較的少なかったことについて、この集団では19例で、それは予期しない母体の出血を避けるために大半の分娩が妊娠34〜35週に計画されていたためかもしれない、と述べています(Bourgioti 2019)。
誰が読み、児の側はどうだったか ― 著者らが挙げた限界
所見を記録したのは3名の放射線科医で、年齢と週数以外の臨床情報・組織所見には盲検でした。3名は別々に読み、食い違いは研究終了後の合議で解決しています。食い違ったときに記録されたのは、経験の長い2名のどちらかが「あり」と読んだほうです。合議と、この「あり」を採る扱いとが、どう組み合わされたのかは示されていません。所見ごとの読影者間一致は、経験21年と10年の2名のあいだでκ 0.63〜0.96、その2名と経験3年の1名とのあいだで0.54〜0.93でした。著者らは0.4超を許容できる信頼性、0.75以上を優れた一致とする基準を採り、いずれの範囲も許容できる一致としています。そのうえで、所見数の閾値は施設や読影医の経験の差を越えて使えるだろうとしつつ、臨床実装を確かめるにはさらに前向き研究が必要だとしています(Bourgioti 2019)。
同じ研究で、このMRIスコアは新生児の有害事象について有意な予測能を示しませんでした。ただし、有害事象ごとに起きた数が違います。早産は80例(P=0.558)、低出生体重は40例(P=0.097)、5分後Apgarスコアが7未満だったのは6例(P=0.078)で、いずれも有意な関連は示されていません(Bourgioti 2019)。著者らは早産について、計画的な早産が多かったためかもしれないと述べています(同)。新生児の予測能が低かったことについては、分娩直後に有害事象が起きた新生児の数が少なかったことが説明かもしれない、としています(同)。個別の所見でみると、結果は違います。低出生体重は、T2強調画像の胎盤内暗帯・筋層の菲薄化(断裂を伴うもの)・子宮の膨隆・膀胱子宮窩の血管増生・子宮傍組織の異常血管と有意に関連しました(いずれもP=0.017〜0.045)。5分後Apgarスコアの異常は、胎盤内暗帯とのみ有意に関連しました(同)。所見数のスコアが予測できたのは、急な分娩開始を除く母体の側であり、児の側は個々の所見との関連にとどまります。
著者らは、この研究のデータがもともとPASの高リスクとされた集団から得られたものであり、結果の一般化可能性は限られる、と述べています。一方で、MRIは妊婦にルーチンで行う検査ではなく、その施行に臨床上の利益がないかぎり使用は正当化されない、と続けています。著者らはさらに、PASが疑われる妊婦の管理が施設ごとに異なることも限界に挙げています。管理は、術者の経験、妊孕性温存の希望、多職種チームの有無、凝固状態と血行動態の安定性、血液製剤や母児のICUへのアクセスに強く依存し、これらは手術時間、止血、子宮温存か摘出か、膀胱の修復といった手術転帰に影響しうる、というものです(Bourgioti 2019)。
こうした限界はあっても、周産期転帰が悪くなるリスク因子を出生前の画像で捉えられれば、分娩をより慎重に設計し、治療の結果を改善できる可能性がある、とも書いています(Bourgioti 2019)。著者らは別のところで、MRIは胎盤の異常な付着の深達度と局在を判定する精度が高いので、産科医が適切な治療方針を選び、患者の予後を改善するのに役立ちうる、と述べています(同)。
著者らは、読影に参加した放射線科医が婦人科・産科画像の領域で経験を積んでおり、そのことが結果を良い方向に働かせた可能性があること、所見の評価が統計解析のために合議で行われたことも、限界として自ら挙げています(Bourgioti 2019)。公式な標準化がないために施設間でMRIのプロトコルとレポートが不均一であることにも触れ、施設をまたいで読影できるようにするにはMRI用語のより簡潔な定義が必要だとしています(同)。
読影の標準化 ― 放射線科側の合意文書
読影の標準化についても、放射線科側から合意文書が出ています。腹部放射線学会(Society of Abdominal Radiology:SAR)と欧州泌尿生殖器放射線学会(European Society of Urogenital Radiology:ESUR)の合同作業部会は、RAND–UCLA Appropriateness Method(エビデンスと専門家判断を統合して合意を得る手法)を用いました。まず21問の質問票を作り、パネル全員に配って回答を集めています。80%以上が賛成すれば「推奨」、80%以上が反対すれば「非推奨」、どちらにも達しなければ「不確実」と分類する手続きでした。最終的な作業部会は、21名の放射線科医(欧州11名・米国8名・アジア1名〔日本〕・南米1名)です。この文書が掲げたのは、撮像・読影・報告を標準化し、放射線科医からレポートを受け取る産科医と外科医の側で読み方が揃うようにすることです(Jha 2020)。
対象となった11所見のうち、7つが「推奨」、4つが「不確実」に分類されました。所見について「非推奨」となったものはありません。推奨の7つは、T2強調画像の胎盤内暗帯、胎盤・子宮の膨隆、胎盤後方のT2低信号線の消失、筋層の菲薄化、膀胱壁の断裂、限局性の外方突出腫瘤、そして胎盤床の異常血管です。不確実の4つは、胎盤の不均一、胎盤の非対称な肥厚と形状、胎盤の虚血性梗塞、そして胎盤内の異常血管です(Jha 2020)。
名前の近いこの二つは、見ている場所が違います。胎盤床の異常血管は、子宮胎盤界面が壊れたところに目立つ血管が現れるもので、その下の筋層へ、程度によっては子宮漿膜まで及ぶことがあり、膀胱・子宮・腟の周囲に広汎な新生血管を伴うこともあります。一方の胎盤内の異常血管は、胎盤の深部に、T2強調画像で蛇行して拡張した flow void(血管)が認められるものです。推奨に入ったのは前者、不確実に残ったのが後者です。著者らは不確実になった理由として、一部の所見が主観的であること、読影者間の変動を、推測として挙げています。加えて、一部の所見は週数が進むにつれて胎盤に起こる通常の変化としても見える、と書いています。それでも作業部会は、構造化レポートに、この4つを含む11所見すべての有無を記載することを推奨しています(Jha 2020)。
推奨に入った所見のうちT2強調画像の胎盤内暗帯について、同じ文書は、この所見が術中出血の増加と子宮摘出に関連し、母体転帰の不良の有意な予測因子であることが示されている、とも書いています。推奨の胎盤床の異常血管を論じる節では、子宮漿膜の血管増生について、出生前MRIでこの所見が認められることは術中出血の増加と、子宮摘出や膀胱修復の必要性を含む分娩時の他の合併症とに関連する、としています。このうち子宮摘出や膀胱修復との関連の根拠として挙げられているのは、さきに見た所見数と転帰の報告です。この合意文書の著者にも、その報告の筆頭著者が加わっています(Jha 2020)。
撮像条件も同じ文書に示されています。MRIは、胎児への有害な影響は確認されておらずどの三半期でも施行できるとしたうえで、最適な時期は妊娠28〜32週とされています。HASTE(half-Fourier single-shot turbo spin echo、1回の励起で撮る高速T2強調法)は必須、静脈内造影剤は不要です(Jha 2020)。
作業部会が構造化レポートに記載を推奨しているのは、この11所見だけではありません。浸潤の深達度、浸潤の局在、そして子宮外への進展も記載の対象です。深達度は単純癒着胎盤または侵入胎盤か穿通胎盤か、局在は子宮体部にあたるS1か子宮下節・頸管・腟上部にあたるS2か、という区分です。子宮外への進展については、膀胱浸潤と子宮傍組織浸潤のそれぞれについて、その部位と及んでいる構造までを記載します(Jha 2020)。
著者らは結論で、MRIはPASの診断における超音波の強力な補助だとしたうえで、超音波でいったん診断が疑われたあとであれば、MRIは超音波から容易に得られる情報に加えて、浸潤の局在と深達度について有用な情報をもたらしうる、と書いています。そのうえで、それは患者に診断と、今回の妊娠および将来の妊孕性への影響を説明するうえでとくに役立つとし、この情報によって、泌尿器科の関与の必要性を含む手術計画と、止血および血液量の補充についての術前の計画が立てられる、としています。MRIの利点のひとつとして超音波にくらべて検者依存性が小さいことを挙げる一方、MRIの活用と臨床応用は放射線科医の専門性に大きく依存する、とも書いています(Jha 2020)。
同じ文書には、なぜ深達度と局在を書かせるのかを述べた節もあります。PASの術中・術後の転帰は胎盤浸潤の深達度と局在に直接関係し、穿通胎盤や子宮傍組織への浸潤がある症例は合併症のリスクが高い、というのがその冒頭です。したがって出生前に浸潤の程度を判定することが重要で、それが臨床医により慎重なカウンセリングを行い、子宮摘出か、より温存的な手術かといった個々に合わせた治療を実施する助けになる、と続きます。局在については、前置胎盤を伴うPASの大半で胎盤はS2にあり、そのことが子宮動脈や内腸骨動脈による血管制御の失敗率の高さを説明するとも述べています(Jha 2020)。
この合意文書が定めたのは、撮像・所見の呼び方・報告の様式についての合意であって、実測の精度ではありません。
第二の層 ― 同じ報告が、どこに置かれるか
検出を問うか予後を問うかで評価が割れる——これが第一の層です。読影の標準化は、その前段にあたります。第二の層は、ひとつの報告がどこに置かれるかに現れます。Einersonらは、超音波の所見または臨床的にPASが疑われ、MRIも受けた米国2施設の78例で、MRIが臨床管理を変えうる診断の変更をもたらしたのは28例(36%)、そのうち13例ではMRIのほうが誤っていた、と報告しました(Einerson 2018)。Einersonら自身は、高いコストと限られた臨床的価値を理由に、有用性がより決定的な前向き研究で明確に示されるまで、PASの診断において超音波の補助としてMRIをルーチンに用いるべきではない、と結んでいます(同)。2025年の二つの総説は、この同じ報告を引用しながら、別の場所に置いています(図2)。
Jauniauxらの総説は、この話題を扱う節を、出生前の画像は診断のための検査というより、スクリーニングまたは予後を測る道具と呼ぶのがふさわしいという一文から始めています。同じ節で著者らは、子宮輪郭と子宮胎盤界面の異常——clear zone の消失、筋層の菲薄化、膨隆のような外観——は前壁下節の瘢痕化とリモデリングに二次的なもので、PASの臨床病理学的診断に特異的ではない、対照的に子宮胎盤循環と胎盤内循環の変化のほうがより特異的だ、とも整理しています(Jauniaux 2025)。そのうえで、経験を積んだ検者が用いるかぎり、超音波とMRIはPASの検出について同程度の感度と特異度をもつとしています。ただし、MRIの装置も、PASに伴う変化を読影する専門性も、どこでも得られるわけではないこと、カラードプラと違って標準的なMRIでは癒着胎盤に伴う血管の変化をマッピングできないことを挙げ、続けてこう書いています(同)。
MRIは3分の1超の症例でPASの臨床管理を変えうる診断の変更をもたらすが、変更されたとき、その診断はしばしば誤っている。全体として、MRIはPASの出生前スクリーニングにおいて役割をもたず、出生時にPASの確率が高いことを示す臨床所見・超音波所見をもつ患者において、補助としての使用も各国および国際的なガイドラインにより推奨されていない(Jauniaux 2025)
Jauniauxらは続けて、熟練した検者による超音波は、前置癒着胎盤の出生前評価で感度88〜97%・特異度90〜97%だとしています(Jauniaux 2025)。
Wallerらの総説は、同じ懸念に触れながら、別の位置づけを与えています。Wallerらは別のところで、MRIはPASの評価において超音波に次ぐ二次的な補助であるとし、現時点でもPASにおける補助的画像診断法として選ばれるものであり続けている、と書いています。MRIが超音波を超えてPASの診断精度を改善することは示されていない、としたうえで、超音波と併用したときには診断精度の改善に有用でありうる、と書いています。とくに有用でありうるものとして、臨床的リスク因子をもつ後壁胎盤、骨盤内臓器への浸潤が懸念される場合、超音波が結論に至らない場合を挙げ、さらに超音波が技術的に難しくなる高い体格指数(body mass index:BMI)の症例を加えています。後壁胎盤についてはさらに、その部位に限定した別のメタ解析も併せて引用しています(Waller 2025)。
撮像時期は妊娠28〜32週が最適とし、28週より前では胎盤の成熟が不完全で不正確な診断につながりうること、32週より後では正常な妊娠後期の変化のためにMRIが難しくなりうることを理由としています(Waller 2025)。放射線科の合意文書が最適とする時期と同じです。
ただし同じ総説は、その節をこう締めています。
MRIレポートの解釈には注意が必要である。MRIレポートによって診断が誤って変更されうるという懸念があるためである(Waller 2025)
二つの総説は、検出の精度については、どちらもMRIが超音波を超えるとは書いていません。まず、Einersonらの報告をどこに置いたかが違います。Jauniauxらはこれを結論の手前に置き、Wallerらは注意書きに置きました。Wallerらが有用でありうるものとして挙げた4つが依っているのは、この報告ではなく別の文献です(Jauniaux 2025・Waller 2025)。
もう一つは、書いている範囲に限定を置いたかどうかです。Jauniauxらが補助としての使用も推奨されないとしているのは、臨床所見と超音波所見でPASの確率が高いと示されている患者についてです(Jauniaux 2025)。一方、WallerらがMRIの有用でありうるものとして挙げた4つには、この限定が付いていません(Waller 2025)。Jauniauxらのいう患者が、同時に、Wallerらの挙げた条件(たとえば高いBMI)にあたることはあります。そのとき同じ妊婦について、Jauniauxらは推奨されないとし、Wallerらは有用でありうるとしていることになります。

図2 同じ一つの報告が、どこに置かれるかで行き着く位置づけが変わります。Einerson らは、MRI が臨床管理を変えうる診断の変更をもたらしたのは78例中28例(36%)で、変えた28例のうち13例では MRI のほうが誤っていた、と報告しました。Jauniaux らはこれを結論の手前で引用し、Waller らは注意書きとして引用しています。Waller らが有用でありうるとした4つの根拠は別の文献です(Einerson 2018・Jauniaux 2025・Waller 2025)。
日本のガイドラインが MRI に与えているもの
産科ガイドライン2026 CQ307 は、超音波検査でPASを疑う所見が認められた場合はMRI検査を考慮する、としています。PASの診断におけるMRI検査の有用性はその診断精度において十分妥当なものであり、膀胱への胎盤膨隆像をはじめとして、子宮筋層の局所断裂像、膀胱のテント化、T2強調画像で胎盤内の暗帯などの特徴的な所見が認められる、と記されています。
続けて、MRIの診断精度が超音波検査と比べより高いということではないが、超音波検査による診断に引き続いてMRIを実施することにより所見の変化や組織特異度が高いことによる新たな情報を得られる可能性がある、とされます。また、増大した子宮と胎盤、癒着部位の位置関係を把握することによって、子宮切開位置の決定、膀胱周囲操作などの手術戦略に寄与する可能性がある、と結ばれています(CQ307 解説2)。
同じガイドラインのCQ304は、前置胎盤の帝王切開の準備を扱うなかでMRIに触れます。カラードプラ法を併用した超音波検査やMRIは前置癒着胎盤の術前診断に有用であるが、いずれも検査の精度には限界があり、特に単純癒着胎盤や浸潤の浅い侵入胎盤の診断はむずかしいことに留意する、と記されています。そのうえで、すべての前置胎盤症例で、癒着胎盤の合併を想定して妊娠・分娩管理を行うべきであるとし、特に胎盤が既往帝王切開創を覆っている場合は、癒着胎盤を強く想定すると続けます。前置癒着胎盤に対する cesarean hysterectomy では出血量はさらに多くなり、輸血や集学的治療が必要となる、とも記されています(CQ304 解説4-2)。
同じCQ304は、Answer 4-2(推奨レベルB)で、癒着胎盤の合併の有無を評価し、必要時には癒着胎盤を想定した準備を行う、としています。準備の中身として挙げられているのは、子宮内バルーンタンポナーデ、カテーテルによるバルーン閉鎖術、動脈塞栓術などの止血法をあらかじめ検討しておくことと、小児科・麻酔科・放射線科などの関連診療科や、手術室・輸血部などの関連部署と患者情報を共有しておくことです。特に癒着胎盤の合併が疑われる場合は、子宮全摘術を要する可能性についても情報を共有し、対応をシミュレーションしておくことが勧められています(CQ304 Answer 4-2・解説4-3)。
Jauniauxらが補助としての使用も推奨されていないとしたのは、臨床所見と超音波所見でPASの確率が高いと示されている患者についてでした。CQ307 がMRIを考慮するとしているのは、超音波でPASを疑う所見が認められた場合です。重なる範囲について、二つは違うことを書いています。Jauniauxらが、推奨されていないことの出典として挙げているガイドラインは、国際産婦人科連合(International Federation of Gynecology and Obstetrics:FIGO)の合意ガイドライン、英国王立産科婦人科医会(Royal College of Obstetricians and Gynaecologists:RCOG)の Green-top ガイドライン、そして米国で出された Obstetric Care Consensus(第7号)の3つで、日本のガイドラインは含まれていません(Jauniaux 2025)。
放射線科の合意文書が構造化レポートに記載を求めている項目のうち、浸潤の局在と膀胱浸潤は、CQ307 が手術戦略への寄与の可能性を述べた一文に挙げている「増大した子宮と胎盤、癒着部位の位置関係」および「膀胱周囲操作」と、指しているものが重なります。
付録:Bourgioti 2019 がスコアに含めた15所見の定義
本文で挙げた15所見は、原典の補足資料(Supporting Information S1)に定義が示されています。重みを付けずに加算するスコアなので、何を陽性と取るかがそのまま所見数を決めます。以下は S1 の定義です。
筋層の菲薄化(断裂を伴う) — 筋層壁の正常な三層(サンドイッチ)構造が失われ、外側筋層のT2低信号が限局性またはびまん性に断裂しているもの
胎盤の不均一 — 胎盤実質の、正常な均一で中間的な信号強度が失われているもの
T2強調画像の胎盤内暗帯 — 胎盤内の、大きさも分布もさまざまな著明な低信号域。フィブリン沈着や梗塞に対応することがある
T1強調画像の高信号巣 — 胎盤実質内の出血や血管湖に対応する可能性がある領域
子宮の膨隆 — 胎盤の突出により子宮外縁が分葉状となり、妊娠子宮の正常な洋梨形・砂時計形が失われているもの(筋層の断裂の有無は問わない)。絨毛が筋層の深部または筋層を越えて浸潤し、周囲の子宮筋の構造的な完全性が失われていることを表している可能性が最も高い
胎盤内の血管増生 — 胎盤の深部に、大きさのさまざまな蛇行した flow void(血管)が多数認められるもの
胎盤辺縁の凹凸 — 通常は鋭く先細る胎盤辺縁の一方または両方が、著しく分葉状になっているもの
頸管内への胎盤の突出 — 胎盤組織が頸管内へ及んでいるもの(頸管間質への浸潤の有無は問わない)
子宮傍組織の胎盤腫瘤 — 胎盤が子宮外へ直接突出し、子宮傍組織の脂肪に及んでいるもの
膀胱壁のT2低信号の消失 — 膀胱壁のT2低信号が、限局性またはびまん性に失われているもの
膀胱内腔の腫瘤 — 胎盤性の腫瘤が膀胱内腔へ突出しているもの
膀胱ドームのテント化 — 膀胱壁が牽引されているもの(膀胱ドームに多い)
子宮漿膜の血管増生 — 通常は径の小さい flow void 構造が多数融合し、子宮漿膜に接する胎盤の母体面に沿って分布するもの
膀胱子宮窩の血管増生 — 通常は径の小さい血管(flow void)構造が多数、子宮表面から膀胱子宮窩の脂肪へ及ぶ、あるいは膀胱壁を断裂させているもの。子宮前壁と膀胱後壁のあいだの腹膜ヒダに生じた高度の新生血管に由来する
子宮傍組織の異常血管 — 通常は径の小さい血管(flow void)構造が多数、子宮表面から子宮傍組織の脂肪へ及ぶもの
T1強調画像の高信号巣だけは、何に対応しうるかが述べられているだけで、他の14所見のように画像上の特徴を述べた定義になっていません。(いずれも Bourgioti 2019・Supporting Information S1)
原典の本文で著者らは、この所見を最も弱いMRIの予測因子とし、膀胱の修復の必要性とだけ相関した、と書いています(Bourgioti 2019)。
付録:本文で用いた略語
PAS — placenta accreta spectrum(癒着胎盤スペクトラム)
MRI — magnetic resonance imaging(磁気共鳴画像)
SAR — Society of Abdominal Radiology(腹部放射線学会)
ESUR — European Society of Urogenital Radiology(欧州泌尿生殖器放射線学会)
RAND–UCLA Appropriateness Method — RAND(ランド研究所)と UCLA(University of California, Los Angeles、カリフォルニア大学ロサンゼルス校)が開発した、エビデンスと専門家判断を統合して合意を得る手法
HASTE — half-Fourier single-shot turbo spin echo(1回の励起で撮る高速T2強調法)
ROC — receiver operating characteristic(受信者動作特性。感度と特異度の組み合わせから最適な閾値を選ぶ解析)
AUC — area under the curve(曲線下面積。ROC 曲線の下の面積で、1に近いほど識別がよく、0.5は偶然と変わらないことを表す)
ICU — intensive care unit(集中治療室)
BMI — body mass index(体格指数)
FIGO — International Federation of Gynecology and Obstetrics(国際産婦人科連合)
RCOG — Royal College of Obstetricians and Gynaecologists(英国王立産科婦人科医会)
T2強調画像 — MRI の撮像法のひとつ(T2-weighted image)。本稿では、胎盤内暗帯(dark bands)、外側筋層や膀胱壁のT2低信号、flow void などの所見に用いられる
flow void — MRI で血流のある血管が信号を失って黒く抜けて描出されるもの
κ(カッパ係数)— 読影者間の一致の程度を、偶然の一致を差し引いて表す指標
参考文献
本文中の(著者 年)は下記に対応します。
Bourgioti C, et al. MRI prognosticators for adverse maternal and neonatal clinical outcome in patients at high risk for placenta accreta spectrum (PAS) disorders. J Magn Reson Imaging 2019;50:602-618. PMID 30578609 —(Bourgioti 2019)
Jha P, et al. Society of Abdominal Radiology (SAR) and European Society of Urogenital Radiology (ESUR) joint consensus statement for MR imaging of placenta accreta spectrum disorders. Eur Radiol 2020;30:2604-2615. PMID 32040730 —(Jha 2020)
Jauniaux E, et al. Placenta accreta spectrum. Nat Rev Dis Primers 2025;11:40. PMID 40473652 —(Jauniaux 2025)
Waller J, et al. Advances in Imaging for Placenta Accreta Spectrum Disorder. Obstet Gynecol 2025;145:621-627. PMID 40209238 —(Waller 2025)
Einerson BD, et al. Magnetic resonance imaging is often misleading when used as an adjunct to ultrasound in the management of placenta accreta spectrum disorders. Am J Obstet Gynecol 2018;218:618.e1-618.e7. PMID 29572089 —(Einerson 2018)
日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会 編.産婦人科診療ガイドライン 産科編 2026.CQ304・CQ307 —(CQ番号で表記)
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