癒着胎盤スペクトラムの見取り図 ― 第1回:どの妊娠を疑うか
本連載は産婦人科専門医が執筆しています。頻出する略語は記事末尾の付録にまとめ、本文では初出時に展開します。
結論(忙しい先生へ)
前置胎盤がある妊婦では、帝王切開既往の回数が増えるほど、癒着胎盤の頻度は高くなります。 陣痛を伴わない帝王切開30,132件のうち前置胎盤を伴った723件では、既往0回で3.3%、1回で11%、2回で40%でした(Silver 2006)。
米国の全国データでは、PASの診断コードは分娩804件に1件でした。 2016年から2021年の入院分娩2,121万件に相当する全国推計で、この頻度は6年間で15.4%増えています。著者は、帝王切開率が高い水準で続いていること、母体年齢の上昇、体外受精の増加といった従来から知られたリスク因子に加えて、産科医の認識の高まりと、臨床診断によるより包括的な基準も寄与した可能性を挙げています(Matsuo 2025)。
PASの調整オッズ比は、胎盤が子宮下節のどこに付くかで桁が変わりました。 単施設の帝王切開44,608件(うちPAS 179例)で、前置も低置もない場合を基準に胎盤位置を6区分した解析では、後壁低置14.12、前方進展のない後壁前置37.02、前壁低置175.9、前壁側と後壁側が等しい対称前置926.88でした(6区分の全値は図2)。ただし信頼区間はいずれも広く(対称前置で391.59〜2,346.73)、著者らはこのPASの症例数から確固たる結論を導くのは難しいかもしれないと述べています(White 2025)。
日本の全国データでも、ホルモン補充周期の凍結融解胚移植で癒着胎盤が多く報告されました。 日本産科婦人科学会の生殖補助医療登録(2014年・574施設・全数)で、自然周期の凍結融解胚移植と比べた調整オッズ比は6.91でした。実数では、自然周期7,763例中11例(0.1%)に対し、ホルモン補充周期16,322例中142例(0.9%)です。この二群で前置胎盤の頻度は同等で、著者は本研究での癒着胎盤の増加が前置胎盤の増加によるものとは考えにくいと述べています。ただし癒着胎盤の主要なリスク因子である子宮手術の既往は、この調整に入っていません(Saito 2019)。
帝王切開以外の子宮手術も、その後の妊娠でPASと関連しました。 38研究・約735万人のシステマティックレビューで、分娩後出血に対する子宮動脈塞栓術後のオッズ比は43.16(4研究)、子宮内掻爬は2回以上で4.12(2研究)です(Yang 2025)。産科ガイドライン2026 CQ307 は、子宮手術の既往と凍結胚移植妊娠(ホルモン補充周期)は前置胎盤を伴わない場合にもPASのリスク因子であることを念頭に置き、分娩時にPASを疑った場合は搬送する、としています(Answer 3・推奨レベルC=考慮の対象となる参考意見)。同CQ307 の解説は子宮筋腫核出術の既往、とくに子宮鏡下を名指ししていますが、その根拠(Lin 2024)に対し、より新しいメタ解析は術式間の差を示しておらず、決着していません。ただしこのメタ解析は対照群を置かない頻度の推定で、子宮鏡下でPASが起きたのは3例です(Rojhani 2026)。
PASの半数は、前置胎盤(前壁の低置胎盤を含む)と帝王切開既往が重なりませんでした。 フランスの人口ベース前向き研究(PACCRETA)では、臨床または病理の基準で診断されたPAS 242例のうち127例(52%)でこの二つが重ならず、データが得られた例に限ると、分娩前に画像で疑われていたのはこの群で17%、重なる群では77%でした。ただし重ならない群も、69%(88/127)に帝王切開を含む子宮手術の既往が、31%(40/127)に前置胎盤または低置胎盤があり、子宮手術の既往も前置胎盤・低置胎盤もない例は21%(27/127)でした(Kayem 2021)。
前置胎盤を伴わないPASは、伴うものより子宮摘出が少ない一方、分娩前に診断されている割合は低いままでした。 病理学的に診断されたPASの4研究を統合したメタ解析では、前置胎盤を伴わない186例で子宮摘出は50.5%(伴う372例では83.6%、オッズ比0.11)、分娩前に診断されていたのは31.7%(伴う側は同じく83.6%、オッズ比0.13)でした。ただし著者らは、組入れ研究はいずれも集学的管理を行う施設とみられ、前置胎盤を伴う症例ほどそうした施設へ紹介されやすいため、この「軽い」という所見自体がその偏りによるかもしれないと述べています(Sugai 2023)。
何を「PAS」と呼んでいるか
単純癒着胎盤(placenta creta)・侵入胎盤(increta)・穿通胎盤(percreta)という三段階は、絨毛が子宮壁のどこまで達したかを記述する言葉です。深達度を詳細に報告した10研究・757例の内訳は、単純癒着胎盤62.5%、侵入胎盤15.4%、穿通胎盤22.1%でした(Jauniaux 2019)。
ただし、この内訳を報告したJauniauxら自身が、その後、この枠組みが病態を反映しているかに異論を呈しています。Jauniauxらは別の検討で、分娩時に癒着部を狙って採取する手法を用いています。そのうえで、絨毛が子宮筋層を漿膜まで、あるいはそれを越えて浸潤している像を病理学的に同定できなかった、と報告しています(Jauniaux 2022a)。
帝王切開瘢痕に直接着床した胎盤では、持続的な高圧の動脈流入が小葉の構造を変形させて胎盤ラクナ(placental lacunae)を進行性に作ります。同じ流入はまた、基底板へのフィブリノイドの蓄積にもつながります。癒着部から採った標本の多くでは、係留絨毛と子宮壁のあいだに、厚さ0.5〜2mmの緻密なフィブリノイドが連続した層をなしていました。著者らは、この層が胎盤と子宮の界面を歪ませ、分娩時に胎盤が生理的に剥がれる部位の一部が失われることにつながるとしています。対照とした妊娠子宮の標本では、基底板と筋層のあいだを、静脈叢を多く含む薄い脱落膜基底層が隔てており、分娩時にはこの層が剥離面としてはたらきます。同じ標本では、妊娠が進むにつれて基底板が不連続になる部位が現れます。そこでは絨毛が表層筋層に近接しますが、直接付着してはおらず、フィブリノイドの沈着も認めません(Jauniaux 2022c)。癒着胎盤の着床は異常に浸潤しているのではなく、その異常な付着は、フィブリノイドの過剰な蓄積によって胎盤と子宮の界面が歪んだことの結果である、というのが著者らの主張です。この病態モデルでは、妊娠後半に、異常に拡張した子宮の深部動脈循環から高流量・高速の血流が生じます。こうした組織学的変化自体も、おそらくはその結果です(Jauniaux 2022a)。

図1 子宮胎盤界面の模式図(上=正常、下=帝王切開瘢痕部の癒着胎盤)。正常では基底板と筋層のあいだに静脈叢を含む薄い脱落膜基底層があり、この層が分娩時の剥離面になります。瘢痕部ではその剥がれる面が失われ、厚さ0.5〜2mmのフィブリノイドが界面に沈着して、界面が波打ちます。母体血の入り方も変わり、らせん動脈の終末からの高流量・低速の流入ではなく、放射状動脈・弓状動脈から直接、高流量・高速で絨毛間腔に入ります。Jauniaux らの病態モデルに基づき作成(Jauniaux 2022a/2022c)。同モデルの模式図は原典 Fig 4 にあります。層の厚さの比は実寸ではありません。
国際産婦人科連合(International Federation of Gynecology and Obstetrics:FIGO)は2019年に、癒着胎盤スペクトラムの臨床診断のための分類を示しました。Grade 1が異常な付着(単純癒着胎盤)、Grade 2とGrade 3はいずれも異常な侵入で、Grade 2が筋層内にとどまる侵入胎盤(increta)、Grade 3が穿通胎盤(percreta)です。Grade 3はさらに、3aが漿膜に限局、3bが膀胱浸潤、3cが他の骨盤内組織・臓器への浸潤(膀胱浸潤の有無は問いません)に分かれます。臨床診断のための分類ですが、各グレードに臨床基準と組織学的基準の両方が置かれています。開腹時の臨床基準でGrade 2とGrade 3aを分けるのは、子宮漿膜面の異常な肉眼所見に加えて、胎盤組織が子宮の表面を貫いて侵入しているのが見えるかどうかの一点です。Grade 3aの組織学的基準は、子宮摘出標本で絨毛組織が漿膜内にある、または漿膜を破っていることです。Grade 1には、分娩された胎盤組織だけでも、胎盤床のランダム生検でも診断はできない、と付されています。病理は臨床診断を確認するゴールドスタンダードと広く考えられているが、癒着型や保存的に管理された症例では得られないことが多い、というのが著者らの前提です(FIGO 2019)。
Jauniauxらの病態モデルでは、癒着胎盤は本質的に、手術後、主として帝王切開後の子宮のリモデリングの帰結です。下部子宮節の大きな帝王切開瘢痕欠損は、正常な脱落膜化の失敗と脱落膜下の筋層の喪失に関連します。正常の妊娠では、絨毛外栄養膜の移動は接合帯(junctional zone)で止まり、作り変えられるのは子宮循環の終末部、接合帯にあるらせん動脈の基部までです。瘢痕部ではこれに加えて、正常な子宮の層が瘢痕組織に置き換わり、絨毛外栄養膜の移動を制御する仕組みも失われます。そのため係留絨毛は子宮の表面近くまで達し、絨毛外栄養膜は子宮漿膜や、子宮周辺の太い母体動脈である放射状動脈・弓状動脈にまで到達します。著者らはこれを、絨毛外栄養膜や絨毛組織が異常に浸潤性であることを示すものではなく、瘢痕部で移動を止める仕組みが失われたことの帰結だとしています(Jauniaux 2022a)。
この見方に立つと、穿通胎盤は絨毛が子宮筋層の全層を貫いて浸潤した結果とは限りません。Jauniauxらは、前置ないし低置胎盤と帝王切開既往があり超音波でPASが疑われた単胎101例の前向きコホートと、症例報告41件の系統的レビューを行いました。コホートで組織標本が得られたのは、帝王切開子宮摘出73例と部分筋層切除7例の計80例です。癒着部から子宮壁の全層と胎盤の厚さの3分の1を2〜6か所採って調べたところ、穿通胎盤の組織像はありませんでした。PASの組織像があった65例も単純癒着胎盤9例と侵入胎盤56例にとどまり、残る15例にはPASの組織学的所見自体がありませんでした(Jauniaux 2022b)。
一方、組織所見を伏せて術中の肉眼所見だけでFIGO分類を付けた二人の評価者は、標本の有無によらないコホート101例全体のうち、それぞれ44例(43.5%)・54例(53.5%)を穿通胎盤と判定しました。二人の一致は重み付き kappa で0.53で、著者らは moderate と評しています。さらに、このコホートには、癒着胎盤ではなかった症例が36例あります。二人はそのうち11例を、そろって穿通胎盤(3a 9例・3b 1例・3c 1例)と判定していました。著者らは、このコホート研究と症例報告の系統的レビューを通じて、絨毛が子宮筋層の全層を貫くことを裏づける記載は確認されず、とくに全層性の絨毛浸潤を示す組織標本や画像は無かった、と記しています。そのうえで、文献上「穿通胎盤」として報告されてきた症例の大半、あるいはすべては、完全または部分的な子宮破裂・離開か、主に子宮下節前壁と膀胱後壁のあいだの癒着の帰結であることが示唆される、と述べています(Jauniaux 2022b)。
帝王切開瘢痕妊娠(cesarean scar pregnancy:CSP)が癒着胎盤へ進展しうることを示すエビデンスは、積み重なってきました(Jauniaux 2022a)。Timor-Tritschらは、文献から集めた症例に、著者らおよび他施設の協力者から提供された症例を加えて、CSPと早期の癒着胎盤あわせて58例を集めています。このうち顕微鏡画像またはスライドの得られた29例を、二人の病理医が、その診断名も互いの判定も知らされずに読みました。CSPと早期の癒着胎盤は同一の組織学的所見を示し、二人の一致は free-marginal kappa で0.93でした。著者らは、両者は組織学的に区別できず、妊娠後期の癒着胎盤に至る連続体の異なる段階を表している可能性がある、と結論しています(Timor-Tritsch 2014)。
PASの分類は、いまも深達度の三段階が基本です。ただし、この分類を術中の肉眼所見だけで付けると、評価者のあいだで判定は割れ、組織所見とも食い違いました(Jauniaux 2022b)。さらにJauniauxらの病態モデルでは、その深達度は瘢痕にどう付いたかの帰結として捉え直されており、帝王切開瘢痕妊娠と早期の癒着胎盤は、その連続体の異なる段階にあたる可能性が指摘されています。
PASの頻度
2011年から2024年までの帝王切開44,608件を対象とした米国の単施設の後ろ向き研究では、PASは179例(帝王切開1,000件あたり4件)でした(White 2025)。著者らはこれとは別に、分娩全体を分母にとったPAS率も算出しており、当該集団のこの期間の率は分娩900件に1件で、先行研究が報告してきた533分娩に1件から272分娩に1件という水準より低い値です(同)。この差について著者は複数の説明を挙げています。Silverらの報告以降、なお不完全ではあるものの、術前のリスク層別化(placenta accreta index)と術中のFIGO基準・病理基準がより明確に定義されてきました。その適用がPASの認識を明確にして偽陽性を減らしたと観察しており、これが差の一部を説明すると仮説を立てています。加えて、単施設のデータでばらつきが小さいとみられること、同施設で診療を受ける患者の約70%がヒスパニック系で非ヒスパニック白人は3〜4%にとどまり、主に非ヒスパニック白人からなるSilverらの集団と異なることを挙げています。ただし人種・民族別に分けた発生率のデータはまだない、とも記しています。そのうえで、複数の集団で現代の頻度を確かめる前向き研究の必要を述べています(同)。
一方、全米入院患者サンプル(National Inpatient Sample:NIS)で2016年から2021年の約2,121万件の入院分娩を解析した研究では、PASの診断コードは分娩804件に1件でした。この頻度は6年間で15.4%(95%信頼区間10.7〜20.4)増え、10万分娩あたり114.8から132.5になりました(Matsuo 2025)。この増加の背景として著者は、帝王切開率が高い水準で続いていること、母体年齢の上昇、体外受精の増加といった従来から知られたリスク因子に加えて、分娩後出血や分娩時の胎盤の付着異常を前にPASを考えるようになったという産科医の認識の高まりと、臨床診断によるより包括的な基準も、寄与した可能性があると述べています(同)。また、ICD-10コードが病理報告による診断と同等ではないことを限界に挙げています(同)。
二つの研究は、PASの数え方が違います。単施設で臨床または病理の所見をもって数えるか(White 2025)、全米の退院データに付いたICD-10の診断コードで数えるかで(Matsuo 2025)、その頻度を左右する要因が変わります。Whiteらが自らの低い率の説明の一つに挙げたのは、術前のリスク層別化と術中基準が整ったことによる偽陽性の減少であり、Matsuoらが増加の背景の一つに挙げたのは産科医の認識の高まりと臨床診断によるより包括的な基準でした。この二つの説明は、PASそのものの増減ではなく、何をPASと数えるかに関わるものです。
前置胎盤と帝王切開既往
癒着胎盤を疑う根拠を数値で示したのは、20年前の研究です。米国国立小児保健・人間発達研究所の母体胎児医学ユニットネットワーク(NICHD MFMU Network)が19の大学医療センターで1999年から2002年にかけて行った前向き観察研究は、陣痛を伴わない帝王切開30,132件を解析しています。前置胎盤を伴う723件では、癒着胎盤の頻度は帝王切開既往0回で3.3%、1回で11%、2回で40%、3回で61%、4回以上で67%でした(Silver 2006)。前置胎盤がなければ、既往4回まではいずれも1%未満(0.03〜0.8%)、5回以上でも4.7%でした(同)。
このとき著者が明記したのは、帝王切開既往1回に前置胎盤を伴う場合の11%が、当時一般に受け入れられていた24%を大きく下回る、という点でした(Silver 2006)。この差の理由として著者は、症例によっては診断が主観的であること、本研究が前置胎盤と帝王切開既往を持つ女性を先行研究より格段に多く含むこと、そしてデータが新しく、帝王切開既往のある前置胎盤の当時の管理をより正確に反映している可能性を挙げています(同)。
前置胎盤と帝王切開既往を一つのモデルに同時に入れた解析もあります。イスラエル南部ネゲブ地方に三次施設はここ一つで、この地方の産科集団のほぼ全て、とくに合併症をもつ妊娠を引き受けています。この施設の1988年から2011年までの単胎帝王切開34,869件を解析した後ろ向き研究で、癒着胎盤は139件(0.4%)でした。出生年・母体年齢・反復流産・妊娠中期の出血・帝王切開既往・前置胎盤の6変数で調整した多変量解析では、前置胎盤の調整オッズ比が50.75(95%信頼区間35.57〜72.45)、帝王切開既往が5.11(3.42〜7.65)でした(Eshkoli 2013)。単変量では有意だった反復流産と妊娠中期の出血は、交絡を調整すると独立したリスク因子としての有意性を失っています(同)。著者らは結論として、癒着胎盤の独立したリスク因子は帝王切開既往と前置胎盤であると述べています(同)。
この研究の癒着胎盤は臨床診断です。帝王切開中に胎盤を娩出する際、担当医が実際に困難をきたした症例を癒着胎盤とし、部分的な癒着も定義に含まれます。著者は、確定診断は病理によるものだが、大半が保存的に管理され、子宮摘出は救命の最終手段としてのみ行われたため得られなかった、と記しています。子宮摘出に至った症例では、記録の得られたかぎりすべてで病理報告が診断を裏づけました(Eshkoli 2013)。
産科ガイドライン2026 のCQ307 も、この組み合わせを第一の答えに置いています。Answer 1 は「帝王切開の既往を有する妊婦に前置胎盤を認める場合にはPASを疑い精査する」と記しています(推奨レベルC)。このCQの表1 には、ここで見た二つの研究がそのまま根拠として並んでいます。20年前の観察も、交絡を調整した解析も、いまの日本のガイドラインが第一の答えを置く根拠です。前置胎盤がなければ、帝王切開既往が4回あっても癒着胎盤は1%未満でした。頻度が大きく上がるのは、前置胎盤を伴う場合です。
胎盤の付着部位
低置胎盤の超音波診断は、内子宮口とそれに最も近い胎盤辺縁との距離が2cm以内の状態をめやすとし、分娩直近かつ子宮口開大前の所見をもって行います(CQ305 Answer 1・推奨レベルB)。分娩直近とするのは、この距離が妊娠後期の子宮下節の展退に伴って長くなる症例があるためです。解説は、前置胎盤との鑑別、分娩様式の決定、分娩中の異常出血などへの対応が必要になることから、子宮口開大前の妊娠36〜37週時の所見をめやすに決定するとしています。同じCQは、前壁付着の低置胎盤で帝王切開既往がある場合に癒着胎盤に注意するとし(Answer 3・推奨レベルB)、解説では、この場合は癒着胎盤の可能性が高く、前置癒着胎盤と同様の注意が必要だと述べています。
子宮下節のどこに付くかで、PASのリスクは一様ではありませんでした。Whiteらは最終の出生前超音波で、前置も低置もないものを基準に胎盤位置を6区分し、調整オッズ比を算出しています。最も低い後壁低置の14.12(95%信頼区間2.26〜47.43)から、前壁側と後壁側が等しい対称前置の926.88(391.59〜2,346.73)まで幅があり、前壁の低置(175.9)は前方進展のない後壁前置(37.02)より上位にありました(White 2025。6区分の全値は図2)。いずれの区分も信頼区間は広く、区分間の大小は点推定によるものです。著者らは、子宮下節での胎盤の位置がPASのリスクを決めるうえで重要であり、前壁側の成分を伴う場合はとくにそうだ、と述べています。
いずれも単施設の帝王切開44,608件(うちPAS 179例)からの推定で、このPASの症例数から確固たる結論を導くのは難しいかもしれないとも記しています。調整は帝王切開の回数と胎盤位置の二つを共変量に置いたもので、体外受精・子宮筋腫核出術・複数回の子宮内掻爬といった他のリスク因子は評価していない、と著者は明記しています(White 2025)。

図2 胎盤の付着部位でみた癒着胎盤スペクトラムのリスク(White 2025)。点推定のみを示しています。信頼区間はいずれの区分でも広く、本文には最小と最大の区分の信頼区間を示しました。
Whiteらは、胎盤の位置と帝王切開の回数を同じ式に入れて解析しています。回数のオッズ比は、胎盤の位置(前置・低置の有無と部位)を調整したうえでの値です。初回帝王切開(既往0回)を基準にすると、PAS発症の調整オッズ比は既往1回16.12、2回44.85、3回78.66、4回以上74.76でした(White 2025)。3回(33.01〜220.19)と4回以上(23.99〜252.00)はオッズ比がほぼ同じで、信頼区間も大きく重なります。前節で挙げたSilverらの3.3%から67%という頻度は、前置胎盤を伴う症例に限ったものです。著者らは、帝王切開の回数が増えるほどPASのリスクが上がることが低置胎盤の症例でも認められ、そのリスク上昇が子宮下節での胎盤の位置に影響されることを、文献への追加として挙げています(同)。
日本のガイドラインが前壁付着の低置胎盤に注意を促すのと同じ方向を、Whiteらの区分は数字で示しています。「前置」でも前壁側の成分があるかどうかでリスクは桁で変わり、帝王切開の回数も同じモデルの中で関わっています。
ホルモン補充周期の凍結融解胚移植と子宮手術の既往——前置胎盤がなくてもPASを疑う根拠になる
産科ガイドライン2026のCQ307は、新設されたCQです。Answer 3 は「子宮手術の既往、凍結胚移植妊娠(ホルモン補充周期)は前置胎盤を伴わない場合にもPASのリスク因子であることを念頭に置き、分娩時にPASを疑った場合は搬送する」と記しています(推奨レベルC)。
Answer 3 の根拠のひとつが、日本の全国データです。Saitoらは、日本産科婦人科学会の生殖補助医療登録2014年(574施設・全数)を解析しました。ホルモン補充周期の凍結融解胚移植は、自然周期の凍結融解胚移植と比べて癒着胎盤の調整オッズ比6.91(95%信頼区間2.87〜16.66)でした。実数では、22週以降の生産・死産を分母にとると、自然周期7,763例中11例(0.1%)に対し、ホルモン補充周期16,322例中142例(0.9%)です(Saito 2019)。単胎に限った感度解析でも、癒着胎盤の調整オッズ比は6.53(2.60〜16.42)で変わりません(同)。
この比較を読むうえでの前提が二つあります。第一に、対照は自然妊娠ではなく自然周期の凍結融解胚移植です。つまり、凍結融解胚移植のなかでの内膜調整法の差です。この自然周期群には、hCGトリガーや黄体補充を用いた修正自然周期も含まれます(Saito 2019)。産科ガイドライン2026 のCQ307 も、自然周期の凍結融解胚移植がPASの発症頻度を増加させるかは不明である、と記しています。
第二に、交絡の扱いです。調整に入っているのは母体年齢・移植した胚の数・胚のステージ・アシステッドハッチングの使用・生殖補助医療の適応です。Saitoらは、前置胎盤の頻度が両群で同等であり、癒着胎盤の増加が前置胎盤の増加によるものとは考えにくい、と述べています。ただし同じ箇所で、癒着胎盤の主要なリスク因子のひとつである子宮手術の既往は解析に含めていない、とも断っています(Saito 2019)。著者らはまた、喫煙・BMI・不妊期間といった測定されていない患者背景が内膜調整法の選択に影響しうるため、結果はそのバイアスで交絡している可能性がある、と記しています。なぜホルモン補充周期が選ばれたかのデータが登録になく、どのような女性がホルモン補充周期を受けやすいかも解析できていません(同)。
Saitoらは、機序についても述べています。プロゲステロンは脱落膜化を誘導し絨毛外栄養膜の浸潤を制御しますが、ホルモン補充周期では最適なホルモン値も着床後の補充期間も定まっていません。妊娠初期のプロゲステロン値の低下が、脱落膜化の不全と絨毛外栄養膜の過剰な浸潤を介して癒着胎盤に至りうる、というものです。根拠として挙げているのは、JauniauxとJurkovicの2012年の総説と、著者ら自身の2018年の症例報告です(Saito 2019)。ここで置かれている機序は絨毛外栄養膜の過剰な浸潤です。その総説を書いたJauniauxとJurkovicは、2022年には、癒着胎盤の着床は異常に浸潤しているのではない、とするモデルを示しています(Jauniaux 2022a)。割れているのは、絨毛外栄養膜が過剰に浸潤性かどうかの一点です。脱落膜化の不全が関わること自体は、どちらのモデルも置いています(Saito 2019/Jauniaux 2022a)。
CQ307が挙げるもうひとつの因子が、「子宮手術の既往」です。帝王切開以外の術式については、Yangらがシステマティックレビューを行っています。対象は38研究・約735万人で、メタ解析は31研究です(Yang 2025)。Yangら自身は限界として、検索が中国語と英語の文献に限られたことと、リスク因子の解析を含む研究の数が比較的限られていたことを挙げ、そのためバイアスが生じうるとしています(同)。
帝王切開以外の子宮手術の既往は、全体では、その後の妊娠でのPASのオッズ比2.29(1.43〜3.68、I²68%)でした(6研究の統合)。手術の種類で差があり、最も高いのは分娩後出血に対する子宮動脈塞栓術後の43.16(20.50〜90.88、I²0%、4研究の統合)です。子宮筋腫核出術も2.29(1.77〜2.97)、子宮内掻爬は2.28(1.78〜2.93)で、掻爬が2回以上では4.12(2.24〜7.59、2研究の統合)でした(Yang 2025)。このシステマティックレビューには日本の5研究が含まれます(同)。術式別の統合値は図3にまとめました。

図3 帝王切開以外の子宮手術と癒着胎盤スペクトラムのオッズ比(Yang 2025)。同論文が統合した推定値のみを示します。「中絶・流産」は人工妊娠中絶(手術・薬物)と自然流産を含みます。子宮鏡下筋腫核出術は、同論文が別のコホート研究(Lin 2024)から引用した値であるため本図には含めていません(本文参照)。
CQ307 の解説が示す表2 も、子宮手術の既往を含むリスク因子を挙げています(図4)。同じ曝露でも出典と集団が違うため、値はそろいません。動脈塞栓術後は、Yangらの統合値43.16に対し、表2 が別の文献から引く経カテーテル動脈塞栓術後が20.82です。どちらも分娩後出血に対する塞栓術の後を見たもので、表2 が引く2021年のメタ解析(Matsuzaki 2021)に対し、Yangらは、より新しい研究を加えた自分たちの値がその更新にあたるとしています(Yang 2025)。子宮筋腫核出術は、Yangらの2.29に対し、表2 は調整オッズ比2.28です。一方、表2 のホルモン補充周期妊娠の6.91は、本文で引いたSaitoらの値そのものです(同ガイドラインが文献として引いています)。

図4 産科ガイドライン2026 CQ307 の解説が挙げる癒着胎盤のリスク因子。子宮手術の既往(回数別)のみ相対リスク、経カテーテル動脈塞栓術後はガイドラインの表に調整の記載がないオッズ比、他は調整オッズ比で、出典文献はそれぞれ異なります。ガイドラインはこの「子宮手術の既往」の例として、子宮内掻爬術とAsherman症候群を挙げています。図3のオッズ比とは別の出典・別の集団です。本図のなかの凍結胚移植(3.16)とホルモン補充周期妊娠(6.91)も出典文献が異なり、両者の差を読み取ることはできません。なお同ガイドラインは、Answer 中に引用がなく解説に引用されている図表について、診療上の参考として掲載したもので、その内容に即した診療を推奨するものではない、としています。
産科ガイドライン2026 のCQ307 の解説は、「子宮筋腫核出術の既往(特に子宮鏡下子宮筋腫核出術)はPASの発症リスクが高い」と記し、その根拠にLinらの報告を挙げています。さきに触れた表2 の子宮筋腫核出術の調整オッズ比2.28 も、同じLinらの研究の値です。核出術の既往のある妊娠と無い妊娠を比べたもので、術式ごとには分けていません(Lin 2024)。
Linらは、台湾の全民健康保険データベースを用い、2008年から2017年に妊娠20週以降で分娩した1,371,458人を解析しています。術式別にみると、PASの調整オッズ比は、筋腫核出術の既往がない妊娠を対照として、開腹1.86(1.33〜2.60)、腹腔鏡2.02(1.41〜2.89)、子宮鏡下が3.88(2.68〜5.63)で、子宮鏡下が最も高い値でした(Lin 2024)。Linらは術式どうしも直接比べており、子宮鏡下は開腹に対しても腹腔鏡に対しても有意に高い、と報告しています(同)。Yangらもこの子宮鏡下の値を引用しています(Yang 2025)。
子宮鏡下が高い理由として、Linらは、その手術が内膜を必ず傷つけ、しかも手術のなかでふつう修復されないことを挙げています。そのうえで、術式によって後続妊娠のPASのリスクが変わりうるため、術者は、妊娠を希望する患者に術式に伴うリスクを説明すべきだ、と述べています(Lin 2024)。
子宮筋腫核出術については、Rojhaniらの2026年のメタ解析も、術式別の比較を目的に掲げています。対象は76研究・11,065妊娠ですが、PASの頻度の算出に用いられたのは6,179妊娠(PAS 154例)です。筋腫核出術後のPASの頻度は1%(95%信頼区間1〜2%)でした。術式別では開腹2%(1〜4%)、腹腔鏡1%(0〜3%)、ロボット支援1%(0〜4%)、子宮鏡1%未満(0〜1%)で、術式間に統計学的な有意差はありません(P=0.67)。ただし研究間の異質性は大きく(I²59.6%)、ロボット支援と子宮鏡下の群はイベント数が少なく検出力が限られるため、第II種の過誤は否定できない、と著者らは記しています(Rojhani 2026)。
なおRojhaniらのメタ解析は現時点でJournal Pre-proof(出版前原稿)であり、要旨と本文・表のあいだに数値の不一致が残っています。たとえば子宮鏡下の頻度は要旨1%未満(0〜1%)に対し本文と表は1%(0〜3%)、術式間差のP値は要旨0.67に対し本文と表は0.66です。上に挙げた値は要旨側のものです。
Rojhaniらは、術式の選択は患者背景・筋腫の性状・術者の習熟に応じて個別化できる、と結論しています。ただしこれらの因子は本解析で直接評価したものではない、と同じ結論のなかで断っています。限界の項でも、筋腫の大きさ・個数・位置といった筋腫の性状や、手技の複雑さ・術者の経験の影響は、報告が一貫しないため評価できなかった、と記しています(Rojhani 2026)。
この二つの研究は、示しているものが違います。Rojhaniらが示したのは、筋腫核出術のあとの妊娠でPASがどれだけ起きたかという頻度で、比べる対照群を置いていません(Rojhani 2026)。Linらが示したのは、核出術の既往がない妊娠と比べたオッズ比です。並べて大小を論じることはできません。ただし、術式のあいだに差があるかという問いは、両者が同じように立てています。子宮鏡下でPASが起きたのは、Linらでは1,742人のうち33例、Rojhaniらでは271妊娠のうち3例でした(Lin 2024/Rojhani 2026)。
術式間に有意差が示されなかったこの結果と、先行する全国規模のコホート研究であるLinらの報告との食い違いは、Rojhaniら自身が挙げているものです。Rojhaniらは自分たちの結果を、術式そのものを将来の妊娠のリスクの主たる決定因子とすべきだという広く行き渡った見方に異を唱えるものだ、と位置づけています(Rojhani 2026)。
Rojhaniらが食い違いの理由に挙げるのは、Linらの報告がレセプトデータに依拠するためPASの誤分類や過小診断が生じうることです(Rojhani 2026)。限界の項では、選択バイアスを挙げています。子宮鏡下は粘膜下筋腫に選ばれることが多く、粘膜下筋腫そのものが内膜と筋層の境界の構造を乱して異常な胎盤付着と独立に関連する——つまり、高く出ているのは術式のせいではなく筋腫のせいかもしれない、というものです(同)。ただしこの懸念は、Rojhaniら自身のデータでは高い値として現れていません。同論文の結果では、子宮鏡下が最も高いということはなく、開腹(2%)より低い値でした。
産科ガイドライン2026 が「特に子宮鏡下子宮筋腫核出術」と書いた根拠はLinらの報告であり、Rojhaniらのメタ解析はそれに異を唱えています。術式のあいだに差があるかは、決着していません。そのうえで、対立している二つの研究が、そろって手元に無いと書いている項目があります。そのひとつが、核出術のときに子宮内腔を穿破したかどうかです。Rojhaniらは調整できなかった交絡としてこれを名指しし、Linらも、縫合の種類や子宮筋層を何層で縫ったかとともに、この情報は持たないと記しています(Rojhani 2026/Lin 2024)。Rojhaniらは、術式の分類だけによるよりも、術中所見を正確に記録することのほうが、その後の生殖に関するカウンセリングには意味をもちうる、としています(Rojhani 2026)。
これらの推定値がどの共変量で調整されているかは、研究ごとに異なります。Yangらは、調整済みの推定値が得られない場合は未調整の推定値を採用したと明記しており、統合値には両者が混在します(Yang 2025)。Saitoらの調整オッズ比が子宮手術の既往を含めていないことは、さきに触れたとおりです(Saito 2019)。Eshkoliらが前置胎盤と帝王切開既往を一つのモデルに入れた解析でも、共変量は先に挙げた6つで、生殖補助医療も帝王切開以外の子宮手術も入っていません(Eshkoli 2013)。Linらの調整は、分娩時年齢・それまでの帝王切開の回数・診断的な子宮内掻爬・人工妊娠中絶手術・前置胎盤・子宮鏡下筋腫核出術を除く子宮鏡手術の既往です。この6つは術式別の値が載る表の脚注によるもので、方法の項には分娩時年齢が挙がっていません。ただし体外受精のデータは持たない、と明記しています(Lin 2024)。ここに挙げたオッズ比は別々の研究から得られたもので、互いを調整したうえでの値ではありません。
前置胎盤がなくても、子宮手術の既往とホルモン補充周期の凍結融解胚移植はPASを疑う根拠になります。
前置胎盤を伴わないPAS——分娩前に見つかりにくい
ここからは、PASと診断された症例の側から数えます。フランスの人口ベース前向き研究(PACCRETA)は、PAS 242例を二つの群に分けました(Kayem 2021)。
ここでのPASは、臨床または病理の四つの基準のうち一つ以上を満たすものと定義されています。一つは胎盤の用手剥離が部分的または全体で不可能で、胎盤と子宮のあいだに剥離面がないこと。二つ目は、胎盤を強制的に剥離させたあとに、ほかに分娩後出血の原因がないまま付着部位から大量に出血したこと。三つ目は子宮摘出標本の病理でPASが確認されたこと。四つ目は、出生前画像でPASが疑われていた例で開腹時にPASの徴候があったことです(Kayem 2021)。
前置胎盤(前壁の低置胎盤を含む)に帝王切開既往1回以上が重なる群が115例(48%)、重ならない群が127例(52%)でした。重ならない群には、どちらか一方だけを持つ症例が含まれます(Kayem 2021)。データが得られた例に限ると、分娩前に画像でPASが疑われていたのは重なる群で77%(86/112)、重ならない群で17%(20/120)でした(同)。
PASの重症度と母体転帰の差は、項目によって分かれました。分娩後出血が500 mLを超えた割合は、重なる群で68%、重ならない群で72%(P=0.43)、2000 mLを超えた割合は重なる群で32%、重ならない群で23%(P=0.09)で、どちらも有意差は示されませんでした(Kayem 2021)。PASの重症度と母体転帰のうち有意差が示された項目——穿通胎盤(38%対5%)、子宮摘出(53%対21%)、動脈塞栓術、赤血球輸血、新鮮凍結血漿輸血、腸管・尿管・膀胱の損傷、ICU入室——は、いずれも重なる群のほうが高い割合でした(同)。重ならない群でも、27例(21%)が子宮摘出に至りました(同)。
一つ目の感度解析は、重なる群と重ならない群の比較可能性を高めるために、帝王切開で分娩した例に限って行われました。穿通胎盤、子宮摘出、血液製剤の輸血、母体合併症の割合は、この解析でも重なる群のほうが高いままでした。二つ目の、分娩前にPASが疑われていた例に限った感度解析では、子宮摘出、血液製剤の輸血、腸管・尿管・膀胱の損傷について同じ方向でしたが、両群の差の大半は統計学的に有意ではありませんでした(Kayem 2021)。
そのうえで著者らは、瘢痕部にないPASで母体合併症が軽かったのは、それが単に剥がれにくいだけの胎盤だったからだ、とは考えていません。PACCRETAの診断基準は厳格で、PASの頻度は英国と北欧の前向き人口ベース研究の報告と見合う水準にありました。さらに、重ならない症例の割合も、その2研究の範囲内でした(Kayem 2021)。疫学研究が挙げてきた独立したリスク因子には、年齢、掻爬、子宮内手術、帝王切開既往を伴わない前置胎盤、前置胎盤を伴わない帝王切開既往があります。これらのリスク因子は、帝王切開瘢痕以外の子宮の部位に生じうるPASと関連します(同)。
実際、重ならない127例の内訳をみると、69%(88/127)に帝王切開を含む子宮手術の既往、31%(40/127)に前置胎盤または低置胎盤があり、子宮手術の既往も前置胎盤・低置胎盤もないのは127例中27例(21%)でした(Kayem 2021)。この127例中27例は、さきに子宮摘出に至った27例とは別の集計です。
母体合併症の差そのものについて、著者らは説明の一つに、重ならない群で穿通胎盤の割合がずっと低かったことを挙げています。加えて、PASに前置胎盤を伴う場合の帝王切開が分娩後出血と母体合併症に関連することは知られている、とも述べています(Kayem 2021)。
著者らは、経腟分娩となった例(重ならない群33例=26%、重なる群2例=2%)の一部がPASではなく胎盤遺残であった可能性は完全には排除できないとしています(Kayem 2021)。フランスでは保存的治療の割合が比較的高く、この比較を診療の異なる他国へ一般化する妥当性は下がりうる、とも述べています(同)。
前置胎盤を伴わないPASは、伴うものと性質が異なります。病理学的に診断されたPASについて、後ろ向きの4研究(単施設または2施設)を統合したメタ解析は、前置胎盤を伴わないPAS 186例と伴うPAS 372例を比較しました。オッズ比はいずれも調整前で、対照は伴う側です。胎盤侵入(侵入胎盤・穿通胎盤)は39.2%(73/186)対74.2%(276/372)、オッズ比0.24(95%信頼区間0.16〜0.37)。子宮摘出は50.5%(94/186)対83.6%(311/372)、オッズ比0.11(0.02〜0.53)。分娩前に診断されていたのは31.7%(59/186)対83.6%(311/372)、オッズ比0.13(0.04〜0.45)でした(Sugai 2023)。伴う側は、子宮摘出も分娩前診断も83.6%(311/372)で同じ値です(同)。出血量も、伴わない群のほうが少なく、平均差は−1.19 L(95%信頼区間−2.09〜−0.28)でした(同)。I² は、胎盤侵入で5%、子宮摘出で88%、分娩前診断で78%、出血で74%です(同)。分娩前に見つかっている割合は、PACCRETAの群分けでみても同じ向きです(図5)。

図5 分娩前にPASが疑われた/診断された割合(Kayem 2021・Sugai 2023)。上=PACCRETAで分娩前に画像でPASが疑われた割合、下=病理学的に診断されたPASのメタ解析で分娩前に診断されていた割合。群の分け方も転帰の定義も二つの研究で異なります(Kayem=前置胎盤と帝王切開既往が重なるか/Sugai=前置胎盤の有無)。Kayem の分母は、画像所見のデータが得られた例に限ったものです(群の全例ではありません)。
胎盤侵入と出血量、子宮摘出は前置胎盤を伴わない群のほうが少なく、分娩前に診断されている割合も低くなっています。産科ガイドライン2026 CQ307 の解説も同じ向きで、前置胎盤を伴わないPASは胎盤侵入・出血・子宮摘出のリスクが低く、分娩前診断がより困難だと記し、その根拠に、いま見たSugaiらの報告を挙げています。ただし絶対値でみると、子宮摘出は前置胎盤を伴わない群でも半数(50.5%)に行われています(Sugai 2023)。
この解析は病理学的に診断された症例に限っており、診断は子宮摘出標本または娩出胎盤の病理検査によります(Sugai 2023)。著者ら自身も限界を挙げています。組入れ研究はいずれも集学的管理を行う施設とみられ、前置胎盤の症例はそうした施設へ紹介されやすい一方、前置胎盤を伴わないPASは分娩前の診断が難しく、その多くは施設の外で分娩している可能性があります。その場合は予期しないPASとなり、重篤な母体合併症につながりうるとしています。そのうえで、「軽い」という所見自体がこの偏りによる可能性がある、と述べています(同)。Sugaiらの群分けは前置胎盤の有無ですが、統合された4研究のうち2研究は低置胎盤を明示的に前置胎盤の側に算入し、さらに1研究は前置胎盤を「胎盤が内子宮口から2.5cm以内」と定義しています(同)。
同じメタ解析は、リスク因子の分布も二群で比べています。生殖補助医療(オッズ比3.95、95%信頼区間2.38〜6.54)と子宮内操作の既往(3.01、2.06〜4.38)は前置胎盤を伴わないPASの側に、帝王切開既往(0.11、0.04〜0.28)は伴うPASの側に偏っていました。著者らは、生殖補助医療と子宮内操作の既往を前置胎盤を伴わないPASの強いリスク因子、帝王切開既往を伴うPASの強いリスク因子として挙げています(Sugai 2023)。ここでも比較の相手は前置胎盤を伴うPASであり、いずれも調整前のオッズ比です(同)。母体年齢については、平均の差でみるかぎり、前置胎盤を伴わないPASとの関連はみられませんでした(同)。
ただし生殖補助医療の値に寄与しているのは4研究のうち2研究で、ホルモン補充周期・凍結融解胚移植・新鮮胚移植といった詳細は不明だと著者らは明記しています。この2研究では、生殖補助医療は体外受精を指すと定義されています(Sugai 2023)。子宮内操作は、子宮内容除去術・掻爬・子宮鏡・子宮内膜アブレーション・胎盤除去を含む定義です(同)。どの操作を数えたかは研究ごとに異なり、掻爬を含むのが4研究のうち3研究、ほかは1〜2研究です(同)。
前置胎盤を伴わないPASが分娩前に見つけにくい理由として考えられるものを、Sugaiらは先行研究も引きながら三つ挙げています。第一に、前置胎盤を伴わないPASでは侵入の程度が軽いこと。第二に、前置胎盤を伴うPASには画像診断の基準があるのに対し、伴わないPASには明確な評価基準がないこと。第三に、そもそも疑われることが少ないことです(Sugai 2023)。
疑う根拠は、前置胎盤と帝王切開既往の組み合わせだけではありません。胎盤が子宮下節のどこに付くかでPASとの関連の強さが異なり、帝王切開以外の子宮手術の既往やホルモン補充周期の凍結融解胚移植もPASと関連しました。それでも、PACCRETAで前置胎盤(前壁の低置胎盤を含む)と帝王切開既往が重ならなかった群の21%(27/127)は、帝王切開を含む子宮手術の既往も前置胎盤・低置胎盤も持っていませんでした(Kayem 2021)。Sugaiらは、前置胎盤を伴わないPASをすべて分娩前に診断できれば集学的管理を行う施設へ紹介できるとしたうえで、実際には難しいかもしれないとも述べています(Sugai 2023)。Kayemらは、重ならない群で明らかになった特徴が、スクリーニングの改善と、設備と資源の整った施設での分娩計画を通じて、PAS高リスクの部分集団で妊娠中の管理を最適化する助けになりうるとしています(Kayem 2021)。
次回は、疑ったあとに何をどう見るか——出生前画像の所見と、いつ高次施設への紹介・搬送を検討するかを扱います。
付録:本文で用いた略語
PAS — placenta accreta spectrum(癒着胎盤スペクトラム)
FIGO — International Federation of Gynecology and Obstetrics(国際産婦人科連合)
CSP — cesarean scar pregnancy(帝王切開瘢痕妊娠)
NIS — National Inpatient Sample(全米入院患者サンプル)
NICHD MFMU Network — National Institute of Child Health and Human Development Maternal-Fetal Medicine Units Network(米国国立小児保健・人間発達研究所 母体胎児医学ユニットネットワーク)
PACCRETA — Placenta Accreta(フランスの人口ベース前向き研究の名称)
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日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会. 産婦人科診療ガイドライン産科編2026. CQ305 低置胎盤の診断・管理は?
日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会. 産婦人科診療ガイドライン産科編2026. CQ307 癒着胎盤スペクトラム(PAS)についての注意点とその対応は?
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