不育症の見取り図 ― 何を検査し、何を治療し、何を見送るか
第1回:見取り図と、どこまで検査するか
不育症(recurrent pregnancy loss:RPL、妊娠の喪失〔流産・死産〕を繰り返す状態)の精査では、しばしば複数の所見が見つかります。そのうち、治療によって次回の妊娠転帰が変わるものは限られています。本連載は、見つかった所見を「治療で生児が増える原因」と「治療では転帰が変わらない随伴所見」に整理し直すことを目的としています。第1回では、その全体像と、どこまで検査を行うかを扱います。
本稿で頻出する略語は末尾の付録にまとめます。本文では各略語を初出時に展開します。
結論(忙しい読者へ)
不育症で原因が特定できるのは一部で、本邦のデータでは約3分の2が原因不明に分類されます。 それでも予後は良く、無治療を含めて5年でみると約7割が生児を得ます。対照群でも多くが生児に至るため、治療群の良好な成績が、そのまま治療効果を意味するとは限りません。
見つかる所見の多くは、流産の原因とも、治療で転帰が変わる対象とも言い切れない随伴所見です。 低用量アスピリンとヘパリンの併用で生児が増えることが臨床試験で示されている"治療できる原因"は、実質的に APS(antiphospholipid syndrome、抗リン脂質抗体症候群)に絞られます(ただし効果の確実性は高いとは言えません)。日本の「不育症管理に関する提言(2025)」も、APS に対する低用量アスピリンとヘパリン治療で生児獲得率が高まるとしています。
所見ごとに、次の三つを順に確かめると整理がつきます。 その所見は流産の原因か、随伴か、偶然か。原因なら、治療で生児が増えるか。増えるなら、変わるのは流産率という代理指標か、累積生児(最終的に児を得て退院できる確率)という真のエンドポイントか。この三つを通った所見が、治療を検討する対象になります。
この三つの見方は、治療だけでなく検査の段階にもあてはまります。 治療方針に結びつかない検査は、解釈に迷う異常値を増やし、不要な治療のきっかけになることがあります。本連載では、この視点から、抗凝固薬が転帰を改善する APS(第2回・第3回)、見つかっても治療では生児が増えない血栓性素因と甲状腺自己抗体(第4回)、より積極的な治療と、実践への統合(第5回)を、順にみていきます。
全体像 ― 約3分の2は原因不明で、無治療でも自然予後は良い
不育症は2回以上の流産・死産と定義され、本邦のデータでは約3分の2が原因不明に分類されます。それでも、経過の中で最終的に児を得られる人は多い――この節では、後の章で個々の所見を検討する前提として、母数(どれだけの患者がいて、何が見つかり、無治療ならどうなるか)を確認します。
定義 ― 2回以上の流産・死産
日本の「不育症管理に関する提言(2025)」は、不育症を流産あるいは死産を2回以上繰り返した状態と定義します。連続している必要はなく、異所性妊娠・胞状奇胎・生化学的妊娠は回数に算入しません。定義には国・学会で幅があり(3回以上を採る基準もあります)、2回以上で精査を始める点はおおむね共通しています。
頻度 ― 不育症は約5%、習慣流産は約1%
本邦のデータでは、2回以上の流産(反復流産)を経験する女性は約4〜5%、3回以上(習慣流産)は約1%です。地域コホート(岡崎、2,733例)では2回以上が4.2%・3回以上が0.88%(Sugiura-Ogasawara 2013)、大規模出生コホート(エコチル調査、94,658例)では2回以上が4.96%・3回以上が1.1%でした(Sugiura-Ogasawara 2019)。提言はこれらを約5%・約1%とまとめ、国内におよそ35〜50万人と推計しています。
見つかる所見 ― 最も多いのは「原因不明」
精査で何が見つかるかを本邦の多施設データ(1,340例、Morita 2019)でみると、最も多いのは原因不明(65.1%)です。判明する所見の内訳は、甲状腺機能異常 9.5%、抗リン脂質抗体陽性 8.7%、子宮形態異常 7.9%、凝固第XII因子欠乏 7.6%、プロテイン S 低下 4.3%、夫婦いずれかの染色体構造異常 3.7% でした。これらは相互排他ではなく、各値はコホート内での頻度です(複数の所見を併せもつ例もあるため、判明分の単純な合計にはなりません)。
ここで一つ確認しておきたいのは、「抗リン脂質抗体陽性 8.7%」は抗体が一度陽性だった割合であり、APS の確定診断ではないという点です。再検査で持続陽性が確認され、改訂 Sapporo 基準(持続的な抗リン脂質抗体と特定の臨床所見の組み合わせで APS を分類する国際基準。基準の変遷と日本での運用は第3回で扱います)を満たした例は、同じコホートで約1.5%にとどまります(Morita 2019)。見つかる所見の多く――抗リン脂質抗体陽性も、甲状腺機能異常も、凝固因子の異常も――は、その時点で「治療すべき原因」が確定したことを意味しません。これらのうち治療で転帰が変わるものを、後の章で一つずつ検討します。
自然予後 ― 治療しなくても、多くが最終的に児を得る
介入の評価を難しくしているのは、無治療でも自然予後が良いことです。提言は、不育症の女性を5年追跡すると約70%が生児を得ると記しています。原因が特定できた群と原因不明の群とでも、最終的な生児獲得率に大きな差はありません。
この高い自然予後は、介入試験の読み方に直接関わります。たとえば染色体構造異常をもつ夫婦でも、累積生児率は正常核型群と変わりません(81.4% 対 74.8%、Li 2022)。流産率自体は高い(53.0% 対 34.7%)にもかかわらず、最終的な生児獲得は同等です。後の章(第4回)で扱う各 RCT でも、対照群の生児率はもともと高く、遺伝性血栓性素因への LMWH を検証した ALIFE2 では標準治療群が70.9%、甲状腺自己抗体への levothyroxine(レボチロキシン)を検証した T4-LIFE ではプラセボ群が48%でした。対照群がこれだけ生児に至る集団では、治療群の生児率が高くても、それだけでは治療効果の証明にはなりません。

図1 所見があっても・無治療でも・対照群でも、生児率はもともと高い。この良好な自然予後のもとでは、治療群が良い成績でも、それが治療の効果によるものとは限らない。
要点:不育症は2回以上の流産・死産で、本邦では約5%(習慣流産は約1%)。精査で最も多いのは原因不明(65.1%)で、抗リン脂質抗体陽性 8.7% の大半も APS 確定(約1.5%)ではありません。無治療でも5年で約70%が生児を得るため、個々の介入は「もともと高い自然予後」を上回るかどうかで評価されます。
治療対象かを見分ける ― 三つの問い
見つかった所見を治療の対象にするかどうかは、次の三つを順に確かめると整理がつきます。その所見は流産の原因か、随伴か、偶然か。原因なら、治療で生児が増えるか。増えるなら、変わるのは流産率(代理指標)か、累積生児(真のエンドポイント)か。後の章で個々の所見を検討する際、この三つを共通の軸として使います。

図2 見つかった所見を治療対象にするかの「三つの見分け」。三つを通った所見が、治療を検討する候補になる。
原因か、随伴か、偶然か
不育症で見つかる所見の多くは、流産を起こしている原因ではなく、流産しやすさを示すだけの随伴所見か、偶然の併存です。所見と流産が同時に存在しても、その所見が流産を起こしているとは限りません。ある所見を原因と呼べるのは、二つの条件がそろうときです。その所見をもつ群ともたない群で転帰が実際に異なること、そして所見を取り除く(または抑える)と転帰が改善することです。たとえば抗リン脂質抗体は、合併症のない妊娠でも一定の頻度で検出されるため、一度の陽性だけでは原因とは言えません。持続するかどうかを時間をあけて確かめる必要があり、その基準は第3回で扱います。
関連があっても、治療で生児が増えるとは限らない
前項で見分けたように、所見が流産と関連していても、それだけでは原因と決められません。さらに、その関連に機序の説明が加わっても、治療して生児が増えるとは限りません。生物学的に機序が想定できること(biological plausibility)と、臨床的に生児を増やすことは、別の問題だからです。たとえば遺伝性血栓性素因では、胎盤の血栓という仮説が提唱され、後期の胎児喪失との弱い関連が報告されてきました。しかし、不育症かつ遺伝性血栓性素因の女性に低分子ヘパリン(LMWH)を検証した RCT(ALIFE2)では、生児率は標準治療と変わりませんでした(71.6% 対 70.9%、詳細は第4回)。
変わるのは代理指標か、真のエンドポイントか
前項で見たように、関連や機序があっても、それだけで治療が生児を増やすわけではありません。さらに、治療が何らかの数値を改善しても、それが「最終的に児を得る」という真のエンドポイントの改善とは限りません。不育症で変えたいのは流産率そのものではなく、累積生児率(最終的に児を得て退院できる確率)です。両者は一致しないことがあります。染色体構造異常をもつ夫婦への着床前遺伝学的検査(PGT-SR)は、観察研究の比較で流産率を大きく下げます(24% 対 65.3%、OR 0.15、Li 2022)。しかし累積生児率は待機と変わりません(60% 対 68%、Li 2022)。代理指標である流産率は改善しても、児を得る最終確率は変わりません。
なお、これと似て見えて異なる場合もあります。観察研究で効果が期待された介入が、ランダム化比較試験では生児を増やさない場合です。中隔子宮への子宮鏡下中隔切除がその例で、長く転帰を改善すると信じられてきましたが、初めてのランダム化比較試験では生児率は待機と変わりませんでした(31% 対 35%、RR 0.88、Rikken 2021)。流産率という代理指標は下がっても累積生児が変わらない例とは別の型で、いずれも第5回で詳しく扱います。
要点:見つかった所見について、原因か(随伴・偶然ではないか)、治療で生児が増えるか、変わるのが代理指標でなく累積生児か――の三つを順に確かめると、治療の対象かどうかが整理できます。機序の説得力や流産率の改善だけでは、治療の十分な根拠とはいえません。
どこまで検査するか ― 標準的な検査と、解釈に注意する検査
検査も、治療と同じ三つの問いの下にあります。結果が治療方針を変えない検査は、解釈に迷う所見を増やし、効果の確かめられていない治療につながりやすくなります。主要なガイドライン(ESHRE・ASRM)が標準的に推奨する不育症の検査は、限られています。
標準的に行う検査
子宮形態の評価(経腟超音波・3D 超音波、必要に応じてソノヒステログラフィー):中隔子宮などの形態異常を検出します。
抗リン脂質抗体:抗カルジオリピン抗体(aCL、IgG・IgM)とループスアンチコアグラント(LA)。APS の診断には抗β2グリコプロテインI抗体(anti-β2GPI)も加えます。いずれも12週以上あけて2回測定し、一過性の陽性を持続性と区別します。
甲状腺機能:TSH と甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)抗体。
夫婦の染色体検査(核型):均衡型転座などを検出します。日本の提言と ASRM が推奨する検査で(ESHRE は個別リスク評価後)、検出率は低く費用もかかるため、他の検査が陰性のときに最後に行う運用もみられます。
ESHRE(2018)は、反復流産で検査すべき抗リン脂質抗体として、ループスアンチコアグラントと抗カルジオリピン抗体を強く推奨し、抗β2グリコプロテインI抗体の検査は考慮してよいとしています。検査の中心が抗リン脂質抗体にあるのは、このためです。
標準では行わない検査
主要ガイドラインは、次の検査を不育症のルーチンとしては推奨していません。いずれも、結果が生児獲得に向けた治療を変えないためです。
抗核抗体(ANA)や、aCL・LA・anti-β2GPI 以外の自己抗体:説明目的で考慮されることはあっても、ルーチンには不要です。
遺伝性血栓性素因のルーチン検査:ESHRE(2018)は、追加のリスク因子がない反復流産では遺伝性血栓性素因をルーチンに検査しないよう提案しています(条件付き)。検査が生児を増やす治療につながらないためです(理由は第4回)。
HLA タイピングや各種免疫機能検査:妊娠転帰を予測しないとされています。
黄体期のプロゲステロン値、子宮内膜生検:将来の妊娠転帰を予測しません。
頸管・腟の培養、トキソプラズマ血清:健常女性の不育症評価には有用でないとされています。
日本の検査はやや広い
日本の「不育症管理に関する提言」は、上記に加えて、凝固第XII因子やプロテイン S など一部の凝固因子を選択的に検査する立場をとっています。これは国内のデータを反映したもので、国際標準との差です。検査で見つかった所見を治療して生児が増えるかどうかは、第4回(血栓性素因)で検討します。本連載は、特定の検査を「すべき/すべきでない」と個別に推奨するものではなく、見つかった所見をどう解釈するかを示すことを目的としています。

図3 不育症の精査で標準的に行う検査と、標準では行わない検査。結果が治療を変えない検査は標準では行わない。
要点:標準的な不育症検査は、子宮形態・抗リン脂質抗体(aCL・LA・anti-β2GPI を 12週あけて2回)・甲状腺(TSH・TPO 抗体)・夫婦核型に限られます。ANA・遺伝性血栓性素因のルーチン・プロゲステロン値・子宮内膜生検などは、結果が治療を変えないため標準では行いません。日本はこれより広く検査する立場で、見つかった所見を治療して生児が増えるかは後の章で扱います。
この連載の見取り図
ここまでの三つの見方(原因か/治療で増えるか/代理か真のエンドポイントか)を軸に、本連載は不育症で「見つかる」主な所見を順に検討します。
第2回・第3回:抗リン脂質抗体症候群(APS) ― 抗凝固薬で生児が増えることが臨床試験で示されている、数少ない所見です。第2回はなぜ効くのか(その機序)と効果の確実性・限界を、第3回は誰にどう治療し、どこで治療を控えるか(抗体プロファイルによる層別化と過剰治療の境界)を扱います。
第4回:血栓性素因と甲状腺自己抗体 ― 見つかっても、抗凝固薬や、甲状腺機能が正常な場合の levothyroxine(レボチロキシン)で生児は増えません(顕性・潜在性の甲状腺機能低下症は別で、治療の対象です)。なぜ関連が治療に結びつかないのかを、主要な RCT(ALIFE2・TABLET・T4-LIFE)と機序から検討します。
第5回:より積極的な治療と、実践への統合 ― 免疫療法・プロゲステロン・ステロイドなど、効果を期待して重ねられてきた介入を整理し、流産率という代理指標と累積生児の取り違えを振り返ります。最後に、何を検査し、何を治療し、何を見送るかを一覧にまとめます。
本連載が見ていくのは、異常な検査値そのものではなく、生児を増やすと示された介入です。次回から、その数少ない対象である APS を詳しくみていきます。
付録:本稿で頻出する略語
RPL(recurrent pregnancy loss、反復流産・不育症)
APS(antiphospholipid syndrome、抗リン脂質抗体症候群)
aCL(anticardiolipin antibody、抗カルジオリピン抗体)
LA(lupus anticoagulant、ループスアンチコアグラント)
anti-β2GPI(anti-β2 glycoprotein I antibody、抗β2グリコプロテインI抗体)
LMWH(low molecular weight heparin、低分子ヘパリン)
PGT-SR(preimplantation genetic testing for structural rearrangements、構造異常に対する着床前遺伝学的検査)
TSH(thyroid stimulating hormone、甲状腺刺激ホルモン)
TPO(thyroid peroxidase、甲状腺ペルオキシダーゼ)
ANA(antinuclear antibody、抗核抗体)
HLA(human leukocyte antigen、ヒト白血球抗原)
RCT(randomized controlled trial、ランダム化比較試験)
OR(odds ratio、オッズ比)/RR(risk ratio、リスク比)
ESHRE(European Society of Human Reproduction and Embryology、欧州ヒト生殖医学会)/ASRM(American Society for Reproductive Medicine、米国生殖医学会)
参考文献
こども家庭庁「不育症管理に関する提言(2025)」
Sugiura-Ogasawara M, et al. J Obstet Gynaecol Res 2013;39:126-131. PMID 22889462
Sugiura-Ogasawara M, et al. Am J Reprod Immunol 2019;81:e13072. PMID 30430678
Morita K, et al. J Obstet Gynaecol Res 2019;45:1997-2006. PMID 31397532
Li S, et al. Fertil Steril 2022;118:906-914. PMID 36175209
Quenby S, et al.(ALIFE2)Lancet 2023;402:54-61. PMID 37271152
van Dijk MM, et al.(T4-LIFE)Lancet Diabetes Endocrinol 2022;10:322-329. PMID 35298917
Rikken JFW, et al. Hum Reprod 2021;36:1260-1267. PMID 33793794
ESHRE Guideline Group on RPL. ESHRE guideline: recurrent pregnancy loss. Hum Reprod Open 2018;2018(2):hoy004. PMID 31486805
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