分娩後出血の見取り図 ― 第2回:出血をどう捉えるか

分娩後出血(postpartum haemorrhage:PPH)への対応は、出血に気づくことから始まります。ところが目分量による推定は、PPHのおよそ半分を見落とします。第2回は、出血をどう捉えるか——目盛り付きドレープや重量法による客観的な計測、そしてバイタルサインによる早期警告——の国際的な現在地と、その限界、そして日本の現在地を整理します。
Obstetric Strategist 2026.08.06
誰でも

本連載は産婦人科専門医が執筆しています。頻出する略語は記事末尾の付録にまとめ、本文では初出時に展開します。

結論(忙しい先生へ)

  • 目分量による出血量の推定は、PPHのおよそ半分を見落とします(感度48%)。 目盛り付きの血液回収ドレープ(calibrated drape)に観察を組み合わせると、検出は93%まで上がります(Yunas 2025)。

  • ただし「よく見つけられる」ことと「転帰が良くなる」ことは、別の問題です。 目盛り付きドレープと目分量を比べた無作為化試験では、重症合併症や輸血の頻度に差を示せていません(Diaz 2018)。ただし試験数が少なく、決着はついていません。検出を上げるだけでは転帰の改善までは示されておらず、早期の検出に一連の初期対応と実装を組み合わせた複合介入は、本連載 第5回で扱います。

  • 量そのものも——目分量は出血量を30〜50%過小評価します。 重量法(血液の染み込んだ材料を計量し、1g=1mLで換算する方法)と、分娩後24時間の累積計測が、国際的に推奨されています(FIGO 2025)。

  • バイタルサインによる早期警告——ショックインデックス(shock index:SI)やMEOWS(Modified Early Obstetric Warning Score、修正版産科早期警告スコア)など——の診断精度は、これまでに93の研究・約70万人で調べられてきました。 しかし指標も対象の定義もばらばらで、メタ解析ができず、「どのスコアが最良か」に決着はついていません(Nakamura 2025)。

  • 日本では既に、計量とSIによって、出血量とバイタルを併せて見る枠組みが用いられています。 SIが1.0以上で急性循環不全への対応、1.5以上で「産科危機的出血」の宣言に用いられています(産科ガイドライン2026・CQ416)。

目分量は半分を見逃す——検出の精度

出血への「気づき」は、どれだけ正確なのか。Cochraneの診断精度レビュー(Yunas 2025)は、経腟分娩でPPH(≥500mL)を検出する各方法の精度を、重量法(血液の染み込んだ材料を計量する客観計測)を「参照基準」に置いて評価しました。ここでの参照基準は、この研究が精度を測るために据えた物差しであって、普遍の真値ではありません(Yunas 自身、確立したゴールドスタンダードはないと述べています)。

目分量による推定の感度は48%(95%CI 44〜53%)でした。 特異度は97%と高いのですが、感度が低い——PPHの女性100人のうち、52人が見逃される計算です。著者は「目視推定は経腟分娩の女性の半数で診断を見逃しうる」と結論しています。

これに対し、目盛り付きの血液回収ドレープ(calibrated drape)に観察を組み合わせた方法の感度は93%(95%CI 92〜94%)、特異度95%でした。ここでいう「観察」とは、ドレープの目盛りで累積出血量を読み、子宮収縮を15分ごと、血圧・脈拍を最初の1時間に1回以上(異常時や出血が続く場合は反復)確認したうえで、臨床判断(多量の性器出血など)か、300〜500mL未満で異常所見をひとつ伴う場合か、500mL以上か——のいずれかでPPHと判断する運用を指します。

図1 出血量の「測り方」で、PPHの検出感度は大きく変わる(Yunas 2025)。 経腟分娩の分娩後出血(≥500mL)を重量法で確定した場合を基準に、目分量による推定は感度48%(およそ半分を見逃す)、目盛り付きドレープに観察を組み合わせると感度93%まで上がる。横棒=95%信頼区間。

ただし、この93%には保留が付きます。高感度を示した2つの研究はいずれも低・中所得国の大規模試験に由来し、研究間のばらつきも大きく、高所得国での追加検証は今後の課題です。

バイタルサインはどうか。SI(ショックインデックス、shock index=心拍数÷収縮期血圧)が1.0以上という基準で、産後2時間までに重症PPH(≥1000mL)を捉える感度は、30%にとどまりました(日本のデータ・Ushida 2021)。SIは循環動態の異常を拾う指標としては有用ですが、出血量そのものの「見える化」の代わりにはなりません。

最後に、混同を避けるための一点を。ここで論じた感度は、「出血量をどれだけ正しく見つけられるか(気づけるか)」という検出の精度です。第1回で扱った、測った出血量が「誰が死亡・重症化するかをどれだけ予測できるか」という予後の精度とは、同じ「感度」でも別の概念です。前者は出血に気づけるかを、後者は気づいた出血が危険かを問うています。

何を、どう測るか——客観計測の国際推奨

では、どう測るか。FIGO(国際産科婦人科連合、International Federation of Gynecology and Obstetrics)は2025年、分娩後の出血量を客観的に計測するための実装ガイダンスを公表しました(Begum 2025)。求めているのは、目分量から標準化された客観計測への転換です。

目分量は、出血量を30〜50%過小評価します。 この過小評価は、専門施設や訓練を積んだ担当者でも生じるとされます。だからこそ、量を「測る」ことが、早期の認識と対応の前提になります。

客観計測の中心は二つです。目盛り付きの血液回収ドレープ(児娩出後、胎盤娩出の直前に殿部の下に敷き、目盛りで累積出血量を読む)と、重量法(血液の染み込んだ材料を計量し、乾燥重量を差し引いて1g=1mLとして換算する)。帝王切開では、血液の染み込んだ手術材料の重量法と、吸引器の内容量(羊水を排出しきった後の量)で推定するのが中心になります。

FIGOはまた、分娩後24時間の累積計測を勧めています。出血は分娩直後だけでなく、その後の数時間にも続きうるからです。分娩直後だけを測って終えるのではなく、経時的に記録することで、帰室後に持続する出血も捉えられます。

なお、計測が難しいときには、SIやrule of 30(循環血液量の約30%喪失を、ヘマトクリット・ヘモグロビン・血圧・心拍数の変化から捉える経験則)といったバイタルサインの指標が補助になります。これらの補助指標や、計測法ごとの詳細は、末尾の付録に整理しました。

測るだけでは、転帰は変わらない

「よく見つけられる」ことと「転帰が良くなる」ことは、同じではありません。

Cochraneレビュー(Diaz 2018)では、目盛り付きドレープと目分量を直接比べた欧州13カ国のクラスター無作為化試験で、重症合併症(凝固障害・臓器不全・ICU入室)は調整リスク比0.82(95%CI 0.48〜1.39)、輸血は0.82(0.46〜1.46)——いずれも群間に差を示せませんでした(中等度の確実性)。血漿増量剤や治療的子宮収縮薬の使用も同様です。

もう一方の比較——目盛り付きドレープと重量法——では、≥500mLとして記録される出血はドレープの方が多くなりました(リスク比1.86、95%CI 1.11〜3.11、高い確実性)。ただし著者は、検出される数が多いことは実際の出血が多いことを必ずしも意味しない、と注意を促しています。そしてこの差もまた、輸血や子宮収縮薬の使用という下流の転帰を変えませんでした(インドの無作為化試験・900人)。検出される件数が増えても、臨床転帰の改善までは示されませんでした——これが、この節の要点です。

著者はこう結論します——「出血量推定の方法について、ある方法を他方より支持する証拠は不十分である」。検出率が高いことは「実際に大量出血が多いことを必ずしも意味しない」、計測法と臨床的利益の因果は不明である、とも付け加えています。

もっとも、これは「差が無い」と確定したわけではありません。含まれた無作為化試験はわずか3つ(解析可能なデータは2つ)で、多くの転帰は測定されておらず、いずれも、早期の検出に一連の初期対応と実装を組み合わせた複合介入が示される前の試験です。著者自身が、出血量と臨床転帰を相関させる、適切に検出力を持つ試験が必要だと求めています。

要するに、計測は出血に「気づく」ための必要条件です。しかし測定法だけでは、転帰の改善までは示されていません。転帰を変えるには何が要るのか——早期の検出に、一連の初期対応と実装を組み合わせた複合介入——は、本連載 第5回で扱います。

早期警告——数は多いが、最良はまだ定まらない

出血量そのものに加えて、バイタルサインの組み合わせから母体の急変を捉えようとする「早期警告スコア」も、PPHの早期察知に使われます。SIや、MEOWSなどです。

その現況を、日本の研究グループが整理しています(Nakamura 2025)。産科の早期警告スコアの診断精度を評価した研究は、93の研究・約70万人に及びました。最もよく調べられていたのはSIで、次いでMEOWSでした。これらのスコアは分娩後出血に限らず、敗血症や母体死亡など重症の母体合併症全般の予測に使われます。そのなかで最も多く研究された標的はPPHで、なかでもSIとPPHの組み合わせが最頻でした。

これらの数字は「その指標を評価した研究が何件あるか」であって、指標の診断精度そのものではありません。 実際、このレビューはメタ解析を行っていません。指標の定義も、対象とする病態の定義も研究ごとにばらばらで、統合できないからです。著者は、産科早期警告スコアは広く使われているものの、標準化された基準とさらなる診断研究が必要だ、と結論しています。

つまり、早期警告スコアは数多く検証されてきたにもかかわらず、「どのスコアが、どの転帰に最良か」に確定した答えはまだありません。SIについては、先ほど見たように、重症PPHの検出感度は30%にとどまります。

日本の現在地

日本の産科診療では、出血量とバイタルサインを統合する軸として、SIが既に用いられています。SIが1.0以上で急性循環不全への対応、1.5以上で「産科危機的出血」の宣言——量とバイタルを併せて見る枠組みが、産科ガイドライン2026(CQ416)に定められています。運用の面では、出血量は計量によって客観的に把握され、バイタルサインは分娩後も継続的にモニターされます。目盛り付きドレープを取り入れている施設もあります。

第2回で見てきたのは、出血をどう捉えるか——その方法と限界でした。目分量は半分を見逃すこと、客観計測がそれを補うこと、検出を上げるだけでは転帰の改善までは示されていないこと、そして早期警告スコアは数多く検証されても最良が定まらないこと。次回は、その「気づいたあと」——原因と、誰が出血するかの予測——に進みます。

***

本連載の各回の要旨・図表アーカイブ・参考文献は、公開リファレンスサイト obstetric-strategist.com にまとめています(本文は theLetter で全文無料)。連載全体を一望し、図表や原典に当たる入り口としてご利用ください。

本連載のこれまで

他の連載もどうぞ(各シリーズ 第1回)

付録:補助指標と計測法の詳細

バイタルサインによる補助指標(FIGO 2025)

出血量の計測が難しい場面では、以下が循環動態の評価を補助します。ただし本文のとおり、これらは出血量そのものの計測に代わるものではありません。

  • ショックインデックス(SI=心拍数÷収縮期血圧):産科の正常値は0.7〜0.9(非妊娠時は0.5〜0.7)。FIGOはSI>0.9をPPH重症度の指標・循環不安定の警告、SI>1を輸血を要する可能性の高まりと位置づけています。(日本の産科ガイドライン2026では、SI≥1.0で急性循環不全への対応、SI≥1.5で「産科危機的出血」の宣言——本文§5参照)

  • rule of 30:循環血液量の約30%喪失の目安。基準となる循環血液量は成人で70mL/kg、妊娠中は100mL/kg。ヘマトクリット30%低下・ヘモグロビン30%低下(≒約3g/dL低下)・収縮期血圧30mmHg低下・心拍数30/分上昇で捉えます。妊娠中は循環血液量が増えているぶん、同じ喪失量でもバイタルの破綻が遅れて現れる点に注意が要ります。

客観計測の方法(FIGO 2025)

  • 目盛り付きの血液回収ドレープ(calibrated drape):児娩出後、胎盤娩出の直前に殿部の下に敷き、回収ポーチの目盛りで累積出血量を読む。

  • 重量法(gravimetric):血液の染み込んだガーゼ・パッド・シーツを計量し、乾燥重量を差し引いて1g=1mLとして換算する。

  • 帝王切開:血液の染み込んだ手術材料の重量法と、吸引器の内容量(羊水を排出しきった後の量)で推定する。PAS(placenta accreta spectrum、癒着胎盤)などでは低砕石位をとり、会陰下に回収バッグを置くこともある。

付録:本稿で頻出する略語

  • PPH — postpartum haemorrhage(分娩後出血)

  • SI — shock index(ショックインデックス。心拍数÷収縮期血圧)

  • MEOWS — Modified Early Obstetric Warning Score(修正版産科早期警告スコア)

  • CI — confidence interval(信頼区間)

  • RR/aRR — risk ratio/adjusted risk ratio(リスク比/調整リスク比)

  • FIGO — International Federation of Gynecology and Obstetrics(国際産科婦人科連合)

参考文献

  • Yunas I, Gallos ID, Devall AJ, et al. Tests for diagnosis of postpartum haemorrhage at vaginal birth. Cochrane Database Syst Rev 2025;1:CD016134. PMID: 39821088

  • Begum F, Nieto-Calvache AJ, Schlembach D, et al. FIGO recommendations on objective measurement of blood loss after birth for early detection of postpartum hemorrhage. Int J Gynaecol Obstet 2025. PMID: 40985490

  • Diaz V, Abalos E, Carroli G. Methods for blood loss estimation after vaginal birth. Cochrane Database Syst Rev 2018;9:CD010980. PMID: 30211952

  • Nakamura E, Naruse K, Miyake R, et al. Early warning systems to predict severe complications during preterm and postpartum: A scoping review. J Obstet Gynaecol Res 2025;51:e70079. PMID: 40994118

  • Ushida T, Kotani T, Imai K, et al. Shock index and postpartum hemorrhage in vaginal deliveries: a multicenter retrospective study. Shock 2021;55(3):332-337. PMID: 32769817

  • 日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会. 産婦人科診療ガイドライン産科編2026. CQ416-1(分娩後異常出血の予防ならびに対応)・CQ416-2(「産科危機的出血」への対応). 2026:268-276.

無料で「産科の羅針盤|産科臨床を変えるエビデンス」をメールでお届けします。コンテンツを見逃さず、読者限定記事も受け取れます。

すでに登録済みの方は こちら

誰でも
分娩後出血の見取り図 ― 第5回:出血が始まったら
誰でも
分娩後出血の見取り図 ― 第4回:予防薬の選択と、その適応
誰でも
分娩後出血の見取り図 ― 第3回:原因と、予測の限界
誰でも
分娩後出血の見取り図 ― 第1回:定義・疫学
誰でも
不育症の見取り図 第5回(最終回):より積極的な治療と、実践への統合
誰でも
不育症の見取り図 第4回:関連はあっても、治療で生児は増えない
誰でも
不育症の見取り図 第3回:APS②――誰を治療し、どこで控えるか
誰でも
不育症の見取り図 第2回:APS①――なぜ抗凝固で生児が増えるのか