不育症の見取り図 第3回:APS②――誰を治療し、どこで控えるか
第3回:APS②――誰を治療し、どこで控えるか
第2回では、APS(antiphospholipid syndrome、抗リン脂質抗体症候群)で抗凝固により生児が増える理由をみました――産科 APS の妊娠喪失は胎盤の血栓ではなくトロホブラスト(栄養膜細胞)の障害と補体の活性化が主体で、ヘパリンは抗凝固以外の作用でも効くためです。ただしその効果は確実性が高くなく(GRADE で LOW、推定は単一の試験に大きく依存)、早産・胎児発育不全には及びにくいという限界もみました。第3回は、その治療を「誰に、どう行い、どこで控えるか」を扱います。その判断を左右するのは、APS という診断名そのものではなく、抗体プロファイル――どの抗体が、どれだけの量で、持続して陽性か――です。
本稿で頻出する略語は末尾の付録にまとめます。本文では各略語を初出時に展開します。
結論(忙しい読者へ)
産科 APS の治療対象を決めるのは、「APS」という診断ラベルではなく、抗体プロファイルです。 同じ「APS」でも、予後は陽性となる抗体の種類・量・持続性で大きく変わります。低用量アスピリンと予防量の低分子ヘパリンで治療しても、3 つの抗体――ループスアンチコアグラント(LA、lupus anticoagulant)・抗カルジオリピン抗体(aCL、anticardiolipin antibody)・抗β2グリコプロテインI抗体(anti-β2GPI)――がすべて陽性(triple positive、三重陽性)の女性では、生児が得られる確率は 30% にとどまります(Saccone 2017)。一方、単一の抗体だけが陽性なら、生児率は抗体の種類によって 47.7〜79.6% と幅があります。
この中で、ループスアンチコアグラント(LA)が最も重い予測因子です。 LA が、抗体が「在る」ことではなく「凝固を実際に阻害する機能」を捉える機能的検査だからです。抗リン脂質抗体(aPL、antiphospholipid antibodies)をもつ妊娠の前向き研究では、LA 陽性の 39% が有害な妊娠転帰をきたしたのに対し、LA 陰性では 3% でした(Lockshin 2012)。aCL や anti-β2GPI は、LA を伴わなければ妊娠転帰を予測しませんでした。
APS には「診断基準」がなく、あるのは「分類基準」です。 分類基準は研究のために均質な患者集団を定義する目的で作られ、特異度を優先します。だから、分類基準を満たさないことは、APS の否定にはなりません。2023 年の ACR/EULAR(American College of Rheumatology/European Alliance of Associations for Rheumatology、米国リウマチ学会/欧州リウマチ学会連盟)分類基準は、従来の改訂 Sapporo 基準より特異度が高い一方、産科所見だけでは閾値に届きにくく、産科 APS を過小診断しえます(特異度 99% 対 86%、Barbhaiya 2023)。日本のガイドライン(抗リン脂質抗体陽性妊娠の診療ガイドライン2026)が改訂 Sapporo 基準を維持し、2023 年の ACR/EULAR 分類基準を産科 APS の診断には用いないのは、このためです。
過剰治療は、治療効果が確立した範囲の外側で起こります。 典型は、再検査で消える一過性(偶発的)の aPL に、ヘパリンを上乗せすることです。日本のデータでは、偶発的 aPL 陽性の女性で、低用量アスピリン単独(生児 81.8%)に予防的ヘパリンを足しても、生児率は上回りませんでした(76.0%、Morita 2019)。治療効果が確立していない対象ほど、上乗せの根拠は薄くなります。
確立した治療は低用量アスピリン+ヘパリンで、薬剤の選択は安全性と簡便性で決まります。 国際的には低分子ヘパリン(LMWH、low molecular weight heparin)が未分画ヘパリン(UFH、unfractionated heparin)より好まれますが、日本では保険適用の関係で UFH が標準です。アスピリンは妊娠前から始めます。
それでも、低用量アスピリン+ヘパリンを行っても、約2割は届きません。 これでもなお有害な転帰を繰り返す女性に、有効性が確立した二次治療はありません。試みられている上乗せ(抗炎症・免疫・補体の側)は、いずれも確証前です。
以下、抗体プロファイルがなぜ予後を決めるのか → 分類基準と診断の関係 → どこで治療を控えるか → どう治療するか → 治療が届かないとき(難治例)にどうするか、の順にみていきます。
ラベルでなくプロファイル ― 予後を決めるのは抗体の種類・量・持続
「APS」という一つの診断名は、均一な集団を指していません。同じ APS でも、どの抗体が、どれだけの力価で、持続して陽性かによって、妊娠の予後は大きく変わります。治療の対象や強度を考える出発点は、診断名ではなく、このプロファイルです。
抗体の数 ― 多いほど予後は悪い
最も見通しのよい軸は、陽性となる抗体の数です。原発性 APS の単胎妊娠 750 例を抗体プロファイル別にみた多施設研究(PREGNANTS study、Saccone 2017。全例が低用量アスピリン+予防量 LMWH で治療されています)では、治療を行ってもなお、陽性抗体が多いほど生児率は下がりました。
単一の抗体のみ陽性(生児 56.6%):LA 単独 79.6%/aCL 単独 56.3%/anti-β2GPI 単独 47.7%
2 つ陽性(aCL と anti-β2GPI の二重陽性、LA は陰性):43.3%
3 つすべて陽性(triple positive、三重陽性):30.0%
複数陽性は単一陽性に比べて生児率が低く(40.9% 対 56.6%、調整オッズ比 0.71)、最も重い triple positive では、治療下でも 3 割しか生児に至りませんでした。「APS だから、治療すれば大丈夫」とはならない――どの抗体がいくつ陽性かで、到達できる生児率の上限が違うことを、この研究は示しています。

図1 抗体プロファイル別の生児率(Saccone 2017 PREGNANTS)。750 例すべてが低用量アスピリン+予防量 LMWH で治療された集団でも、陽性抗体が多いほど生児率は下がり、三重陽性では 30.0% にとどまる。
抗体の種類 ― ループスアンチコアグラント(LA)が最も重い
抗体の「種類」では、LA の意味が際立ちます。aCL や anti-β2GPI が抗体の「存在」を測る免疫測定であるのに対し、LA は凝固を実際に阻害する「機能」を捉える機能的検査です。LA 陽性は、抗体が単に存在するだけでなく、リン脂質依存性の凝固に機能的な作用をもつことを示し、妊娠リスクの予測に最も強く結びつきます。
aPL をもつ妊娠を追った前向き研究(PROMISSE study、Lockshin 2012)では、LA 陽性の 39% が有害な妊娠転帰をきたしたのに対し、LA 陰性では 3% でした。中〜高力価(≥40 単位)の IgG 抗体(aCL あるいは anti-β2GPI)をもっていても、転帰を分けたのは LA の有無でした。IgG aCL では、LA を伴わなければ有害転帰は 8%、LA を伴うと 43% でした。IgG anti-β2GPI でも、LA を伴わなければ 0%、LA を伴うと 41% でした。つまり、転帰を予測したのは LA であって、aCL や anti-β2GPI 単独ではありませんでした。また、血栓のリスクでみても、LA は血栓に対するオッズ比がすべての研究で有意だった一方、aCL は 28 の評価のうち 15 でしか有意にならず、両者を直接比較した 5 つの研究でも有意だったのは LA でした(Galli 2003)。
ここで、一見矛盾するようにみえる所見があります。先の PREGNANTS study では、LA 単独陽性の生児率はむしろ最も高い(79.6%)のです。これは矛盾ではありません。LA 単独陽性は稀で(このコホートで 7.2%)、しかも PREGNANTS(原発性 APS の生児率)と PROMISSE(aPL 保有妊娠の有害転帰の予測)とでは、対象集団も測る転帰も異なります。一貫しているのは、LA が最も重い単一の予測因子であり、抗体が複数重なる(triple positive)ほど予後が悪い、という点です。LA 単独陽性のときの生児率と、予測因子としての重みは、別の軸の話になります。
この「LA が最も重い予測因子」という見方は、最新のデータでも支持されています。日本の前向きコホート(1,237 例、Nonobe 2026)では、LA(希釈ラッセル蛇毒時間法)が早発の妊娠高血圧腎症の、anti-β2GPI IgG が子宮内胎児死亡の予測因子と報告されました(ただし LA と早発妊娠高血圧腎症の関連は高血圧などで調整すると弱まり、anti-β2GPI IgG の子宮内胎児死亡予測の方が頑健でした)。複合的な有害転帰で LA を主軸とした PROMISSE の像に、転帰ごとに結びつく抗体が異なりうるという解像度を加える知見です。
力価と持続性
残る二つの軸が、力価と持続性です。臨床的に意味のあるプロファイルは、LA 陽性、または aCL・anti-β2GPI が中〜高力価で、それが 12 週以上あけて 2 回持続することと定義されます(改訂 Sapporo 基準)。力価の区分は、aCL・anti-β2GPI を ELISA で測ったとき、中力価 40〜79 単位・高力価 ≥80 単位とされます(2023 ACR/EULAR 基準)。これに届かない 40 単位未満の低力価が、LA 陰性のもとで単独で持続する場合は、分類基準の閾値に達さず、臨床的意義は確立していません。持続性については次々節(どこで治療を控えるか)で改めて扱います。
なぜプロファイルが予後を決めるのか
このプロファイル依存は、第2回でみた機序から説明できます。産科 APS の病態は、純粋な血栓ではなく、補体の活性化とトロホブラスト障害を含む複数の機構でした。陽性となる抗体が多いこと(triple positive)は、予後不良の高リスクプロファイルであり、こうした複数の病原機構がより強く働く状態を反映していると考えられます。プロファイルは病態の強度を示す代理指標であり、だからこそ「APS」というラベルではなく、抗体プロファイルが予後を決めます。
要点:産科 APS の予後は、診断名ではなく抗体プロファイル(数・種類・力価・持続)で決まります。陽性抗体が多いほど予後は悪く、三重陽性では治療下でも生児は 30%(Saccone 2017)。種類では LA が最も重い予測因子で、LA を伴わなければ aCL・anti-β2GPI 単独では転帰を予測しませんでした(Lockshin 2012)。プロファイルは、第2回でみた複数の病原機構の強度を示す代理指標です。
分類基準は診断基準ではない ― 改訂 Sapporo と 2023 ACR/EULAR
前節でみたプロファイルの読み方は、臨床判断そのものです。ここで一度、その判断と「基準」の関係を整理しておきます。結論から言えば、APS には診断基準がなく、あるのは分類基準です。この区別を踏まえることが、過小診断と過剰治療の両方を避けることにつながります。
分類基準とは何か
分類基準は、臨床研究のために均質な患者集団を定義する目的で作られます。研究では「APS でない人を誤って含めない」ことが重視されるため、分類基準は感度より特異度を優先します(その度合いは基準によって異なり、後でみるように 2023 年の ACR/EULAR 基準でとくに顕著です)。その結果、「臨床的には APS と判断できるが、分類基準は満たさない」患者が存在しえます。実際、2023 ACR/EULAR 基準自身が、観察研究や臨床試験での使用を目的に高い特異度をもって開発されたと明記しています(Barbhaiya 2023)。研究のための基準である以上、それを診断の代用にしたり、満たさないことだけを根拠に APS を除外したりするのは適切ではありません。基準を満たすかどうかではなく、前節のプロファイルがどれだけ危険かを読むこと――それが臨床の判断です。
二つの基準
産科領域に関わる分類基準は、二つあります。
改訂 Sapporo(Sydney)基準(Miyakis 2006)は、臨床基準のいずれか一つと、検査基準のいずれか一つを満たせば APS と分類します。産科の臨床基準は、(a) 10 週以降の形態正常胎児の死亡、(b) 34 週未満の、重症妊娠高血圧腎症・子癇または胎盤機能不全による形態正常児の早産、(c) 10 週未満の 3 回以上連続する流産(解剖学的・内分泌的・染色体的な原因を除く)――の三つで、いずれか一つを満たせば臨床基準に該当します。検査基準は、LA、中〜高力価の aCL、または anti-β2GPI(>99 パーセンタイルで定義)を、12 週以上あけて 2 回陽性、です。

図2 改訂 Sapporo 基準の判定。臨床基準と検査基準を各いずれか一つ満たせば APS と分類される(点数はない)。連続流産 3 回だけでも臨床基準(c)に該当する。
2023 年の ACR/EULAR 分類基準(Barbhaiya 2023)は、構造が異なります。まず入口の条件(aPL 関連の臨床所見と、それから 3 年以内の aPL 陽性)を置き、そのうえで臨床ドメインと検査ドメインのそれぞれに重み付きの点数を割り当て、臨床から 3 点以上かつ検査から 3 点以上で APS と分類します。検証コホートでの性能は、改訂 Sapporo に比べて特異度が高く、感度が低いものでした(特異度 99% 対 86%、感度 84% 対 99%)。

図3 2023 ACR/EULAR 基準の判定。入口条件(aPL 関連の臨床所見+3 年以内の aPL 陽性)を満たしたうえで、臨床ドメイン・検査ドメインそれぞれ 3 点以上を要する。産科所見は、連続流産・胎児死亡が 1 点、重症妊娠高血圧腎症・胎盤機能不全が 3〜4 点で重み付けされる。
ここで、この感度・特異度がどう測られたかに触れておきます。APS には生検のような生物学的な確定診断(真値)がないため、両基準の感度・特異度は、独立した専門医 3 名が臨床経過と抗体検査の両方をみて下した「APS か否か」の合意を基準(gold standard)として算出されています(Barbhaiya 2023)。専門医には新基準の中身を伏せて偏りを抑えていますが、専門家の APS 像はそもそも従来の改訂 Sapporo 基準で形づくられており、論文自身、審判者が確立した基準に引きずられる偏りを限界として認めています。だから、改訂 Sapporo の感度が 99% と高く出るのは、一部が同義反復です。逆に ACR/EULAR の感度 84% は「真の APS の 16% を見落とす」という意味ではなく、専門家の判断を基準にしてもなお 2 割弱をあえて分類しない――研究用にそれだけ厳しく絞っている、と読むのが正確です。
なぜ日本は改訂 Sapporo を維持するのか
差が出るのは、2023 年の ACR/EULAR 基準の産科ドメインの点数配分です。不育症の典型像――10 週未満の連続流産や、10〜34 週の胎児死亡――は、同基準では一つの項目にまとめられ、1 点にしかなりません。3 点以上が必要な臨床ドメインで、産科所見だけからこの閾値に届くのは、重症妊娠高血圧腎症や重症胎盤機能不全(それぞれ 3〜4 点)を伴う場合に限られます。つまり、流産や胎児死亡を繰り返していても、重症の妊娠高血圧腎症などがなければ、同基準では「APS に分類されない」ことになります。
これは、研究のための高い特異度が、臨床では見落とし(過小診断)に変わりうることを意味します。だから日本のガイドラインは、産科 APS の診断には改訂 Sapporo 基準を維持し、2023 年の ACR/EULAR 基準を診断には用いない立場をとっています。この基準が劣っているわけではありません。研究で均質な集団を定義するには高い特異度が有用で、その目的には適しています。ただ、目の前の不育症の女性を「治療すべき APS か」と判断する場面では、研究用の厳格さがそのまま過小診断につながりうる――分類基準は研究のための枠組みであって、臨床判断そのものではありません。臨床で判断の指針になるのは、前節でみたプロファイルの層別化です。

図4 同じ不育症例(10 週未満の連続流産 3 回+持続 LA 陽性、重症妊娠高血圧腎症・胎盤機能不全なし)を二つの基準にかけると、改訂 Sapporo は APS に分類する一方、2023 ACR/EULAR は臨床ドメインが 1 点にとどまり分類しない。ACR/EULAR の高い特異度(99% 対 86%)は、検証コホート全体での感度の低下(84% 対 99%)と引き換えであり、産科 APS ではそれが過小診断として現れる。
要点:APS には診断基準がなく、あるのは分類基準です。分類基準は特異度を優先するため、満たさないことは APS の否定になりません。2023 年の ACR/EULAR 基準は改訂 Sapporo より特異度が高い(99% 対 86%)一方、不育症の産科所見(連続流産・胎児死亡)は一つの項目にまとめて 1 点とされ、重症妊娠高血圧腎症などを伴わなければ閾値(臨床 3 点)に届かず、産科 APS を過小診断しえます。日本が改訂 Sapporo を維持するのは、このためです。
どこで治療を控えるか ― 偶発的 aPL にヘパリンを足さない
前節でみた治療効果が確立した範囲は、同時に過剰治療の境界線でもあります。改訂 Sapporo 基準を満たす APS は、抗血栓療法で生児が増えることが示された、確かな治療対象です(第2回)。過剰治療は、この範囲の外側で起こります。外側には、再検査で消える一過性の抗体や、臨床的意義の定まらない非基準の抗体があり、いずれも治療の根拠は薄くなります。
持続性 ― 一過性の陽性を除く
抗体が「持続して」陽性であること(12 週以上あけて 2 回)が基準に組み込まれているのには、理由があります。aPL は、感染や薬剤に伴って一過性に陽性化することがあり、その多くは後に消えます。健常な献血者でも、抗カルジオリピン抗体は一定の頻度で陽性となりますが(IgG で約 6.5%)、追跡すると多くが陰性化していきます(Vila 1994)。一度の陽性で APS と判断すれば、こうした一過性の陽性者を取り込んでしまいます。12 週あけた再検査は、一過性の陽性と、持続する真の所見とを見分けるためのものです。
偶発的 aPL ― 再検で消える抗体にヘパリンを足さない
この再検査で陰性となる抗体を、日本のガイドラインは「偶発的 aPL」と呼びます。臨床で迷うのは、一度陽性が出た後、再検で持続が確認できなかったときに、低用量アスピリンに加えてヘパリンまで足すかどうかです。
日本のデータが、ここに直接答えています。偶発的 aPL 陽性の女性で、低用量アスピリン単独群の生児率は 81.8%(9/11)、低用量アスピリンにヘパリンを加えた群は 76.0%(19/25)で、ヘパリンの上乗せは生児率を上回りませんでした(Morita 2019)。これを受けて日本のガイドラインは、偶発的 aPL に対して低用量アスピリン+ヘパリンが低用量アスピリン単独を上回る根拠はなく、安易にヘパリンを足すべきではない、としています。いずれの群も少数例での観察であり、ヘパリンが有害だという意味ではありません。ただ、上乗せの利益が示されていない、ということです。
非基準 aPL ― 測れば測るほど迷う
確立した範囲の外側には、もう一つ、非基準の抗体があります。IgA アイソタイプの aCL・anti-β2GPI や、抗ホスファチジルセリン/プロトロンビン抗体(aPS/PT、anti-phosphatidylserine/prothrombin antibody)などです。これらは、改訂 Sapporo・2023 ACR/EULAR のいずれの分類基準でも検査項目に含まれていません。標準化が不十分で臨床的意義が定まらないこと、そして多くは基準の抗体(IgG/IgM)と併存するため、単独での意味が分かりにくいことが、その理由です。検査の幅を広げるほど、解釈に迷う陽性が増え、確立した範囲から外れた治療につながりえます。
ただし、非基準 aPL を一律に退けるわけではありません。日本のガイドラインは、すでに APS と分類された女性には非基準 aPL を測定しないことを提案する一方、臨床基準は満たすのに基準の aPL(LA・aCL・anti-β2GPI)が陰性という女性に限っては、aPS/PT などの測定を条件つきで提案しています(いずれも弱い推奨で、エビデンスのレベルは低いものです。同ガイドライン)。測定が意味をもつのは、このように臨床的には APS を疑うのに基準の抗体が出ない、限られた場面です(これらの選択的検査は第5回でも扱います)。
確立した範囲から離れるほど、根拠は薄くなる
持続性で再検陰性となる偶発的 aPL、標準化の進まない非基準 aPL――治療効果が確立した範囲(改訂 Sapporo を満たす持続陽性の APS)から外側へ離れるほど、治療を上乗せする根拠は薄くなります。臨床的な利益が示されていないのに、「念のため」とヘパリンが上乗せされることがあります。けれども、確立した範囲の中で低用量アスピリン+ヘパリンを行うことと、その外で根拠の薄い上乗せを足すことは、別のことです。

図5 治療の意思決定。治療対象を決めるのは「APS」というラベルではなく、治療効果が確立した範囲(改訂 Sapporo を満たす持続陽性)。その範囲の外側(偶発的 aPL・非基準 aPL)へ離れるほど、ヘパリンの上乗せや検査の根拠は薄くなる。
要点:過剰治療は、治療効果が確立した範囲(改訂 Sapporo を満たす持続陽性の APS)の外側で起こります。再検で消える偶発的 aPL では、低用量アスピリンにヘパリンを足しても生児率は上回らず(81.8% 対 76.0%、Morita 2019。いずれも少数例での観察で、ヘパリンが有害という意味ではありません)、ガイドラインも安易な上乗せを戒めています。非基準 aPL も、すでに APS と分類された女性にはルーチンには測定しません(ただし臨床基準を満たすのに基準 aPL が陰性の場合に限り、aPS/PT などを条件つきで測定します。同ガイドライン)。確立した範囲から離れるほど、上乗せの根拠は薄くなります。
どう治療するか ― 確立した治療と、薬剤選択の論理
ここまで、誰を治療対象とし(プロファイル)、どこで治療を控えるか(分類基準と、治療効果が確立した範囲の境界)をみてきました。最後に、治療すると決めた女性に「何を、どう」用いるかを整理します。確立した治療は低用量アスピリン+ヘパリンで、迷いの少ない部分です。ただし、薬剤の選択には、効果だけでなく――安全性と簡便性、そして日本では保険適用という――別の論理が働きます。
ヘパリンの種類 ― 国際標準と日本の実務が分かれるところ
ヘパリンには、未分画ヘパリン(UFH、unfractionated heparin)と低分子ヘパリン(LMWH、low molecular weight heparin)があります。国際的には、LMWH が UFH より好まれます。第2回でみたように、Cochrane の統合解析(Hamulyák 2020)で UFH+アスピリンの相対危険度(生児 1.74)が LMWH+アスピリン(1.20)より大きくみえたのは、UFH が優れるからではなく、UFH の試験が古く小規模で効果が過大に出やすかったためでした。両者の効果に大きな差はないと考えられており、差がつくのは効果ではなく、出血・骨粗鬆症といった副作用の少なさと、1 日 1 回投与で済む利便性の側です。
ところが、日本の実務はここで国際標準と分かれます。日本のガイドライン(抗リン脂質抗体陽性妊娠の診療ガイドライン2026)は、APS 合併妊娠の基本治療を低用量アスピリン+UFH としています。LMWH が海外で広く使われていることを認めたうえで、日本では保険収載の関係から UFH が通常用いられる、と明記しています。そしてガイドライン自身、パイロットスタディをもとに LMWH と UFH の効果に大きな差はないとし、さらに副作用が軽く投与も 1 日 1 回で患者の負担が小さいことから、「APS 合併妊娠の治療における LMWH の保険収載が強く望まれる」と述べています。UFH による皮疹や肝機能障害などのために例外的に LMWH を用いる場合は、保険適用外となるため、投与前に文書での同意を得る、とされています。
つまり、ここで分かれているのは医学的な優劣ではなく、制度です。国際的な推奨(LMWH 優先)と日本の標準(UFH)の差は、効果の差ではなく、何が保険で使えるかの差から来ています。
避ける薬剤 ― ワルファリン・DOAC、そして HIT のとき
妊娠中に避ける薬剤も決まっています。ワルファリンは催奇形性があり、直接経口抗凝固薬(DOAC、direct oral anticoagulant)は胎盤を通過し安全性データを欠くため、いずれも妊娠中は用いません(同ガイドライン)。妊娠前にワルファリンを内服していた女性(血栓症の既往がある場合)は、妊娠中はヘパリンに切り替えます。例外は、ヘパリン起因性血小板減少症(HIT、heparin-induced thrombocytopenia)でヘパリンが使えないときで、この場合はダナパロイドやフォンダパリヌクスが妥当な選択肢になります(妊娠中の HIT はまれです)。
いつ始め、いつ止めるか
低用量アスピリンは、できれば妊娠前から始めます。APS に限らない反復流産(1〜2 回の流産既往)の女性を対象にした EAGeR 試験の per-protocol 解析では、低用量アスピリンを妊娠前から始めて妊娠を通じて続けた群で流産が減り生児が増え、週 4 日未満の服用ではこの効果が減弱しました(Naimi 2021)。日本のデータでも、低用量アスピリン+UFH 群で、妊娠前からのアスピリン投与は 34 週未満の早産リスクを下げました(同ガイドライン)。ヘパリンは、子宮内妊娠が確認された時点から始めます。日本での用量は、低用量アスピリン 81〜100 mg/日、UFH は血栓症の既往がない症例で予防量 10,000 単位/日(5,000〜12,000 単位を 2〜3 回に分割して皮下注)です(同ガイドライン)。
止めるタイミングは、分娩と区域麻酔の安全に合わせて決まります。日本では、アスピリンは添付文書上、出産予定日前 12 週以内(妊娠 28 週以降)の投与が禁忌です。ただし産婦人科診療ガイドライン産科編2026 は、APS に対する低用量アスピリン(81〜100 mg/日)について、28 週以降はその必要性を十分に検討したうえで妊娠 36 週まで投与することを推奨しています。これは適応外使用であり、妊娠高血圧腎症の予防としての保険適用もないため、その旨を患者に説明し同意を得て処方します。低用量であれば母児の出血リスクは低いものの、分娩の 1〜2 週間前には中止するのが望ましいとされています(いずれも産婦人科診療ガイドライン産科編2026)。ヘパリンは、産科 APS(血栓症の既往がない場合)では妊娠 36 週または分娩前までの投与を基本とします(同ガイドライン)。止める時期は、分娩時の出血と、硬膜外血腫を避けた区域麻酔の安全から決まり、ここで投与経路ごとの薬物動態が関わります。日常用いる皮下注の UFH は吸収が緩やかなぶん効果が長く続き、最終投与から効果が十分に減弱するまで通常 6〜10 時間ほどかかります。そのため分娩が近づくと持続静注に切り替える選択肢があり、持続静注では半減期が 0.5〜1 時間と短く数時間で消失するため、分娩時の出血リスクを抑えやすくなります。UFH はいずれの投与経路でも必要ならプロタミン硫酸塩で中和でき、この点が分娩前後で UFH を扱いやすくしています。一方 LMWH は作用が長く、区域麻酔(脊髄幹ブロック)の前に 24 時間あける必要があります。具体的な投与・中止の時期や帝王切開の麻酔方針は施設により異なり、麻酔科と事前に協議して個別に判断されます。
抗凝固を続ける期間は、分娩で終わりではありません。静脈血栓塞栓症(VTE、venous thromboembolism)はむしろ産褥期に多く、産後こそ管理が要ります。血栓症の既往がある APS では産後もヘパリンを継続し(VTE 例ではワルファリンに切り替え)、血栓症の既往がない APS でも、triple positive・LA 持続陽性・SLE 合併などの高リスク例には、産後に低用量アスピリンを 3 か月から年単位で続けることが条件つきで提案されています(同ガイドライン)。薬物療法に加え、APS 合併妊娠ではより密な妊娠管理が行われます。妊娠後期からの連続的な胎児発育計測や胎児健常性の評価に加え、補体(C3・C4d)を測ることもあります――第2回でみたとおり、産科 APS の病態の中心が補体の活性化にあるためです。
要点:確立した治療は低用量アスピリン+ヘパリンです。ヘパリンの種類では、国際的には安全性・簡便性から低分子ヘパリン(LMWH)が好まれますが(効果は未分画ヘパリン〔UFH〕と大差なし)、日本では保険適用の関係で UFH が標準で、ガイドライン自身が LMWH の保険収載を望んでいます――分かれているのは医学的優劣ではなく制度です。ワルファリン(催奇形性)・DOAC(胎盤通過)は避け、HIT のときはダナパロイド等を用います。アスピリンは妊娠前から、ヘパリンは妊娠確認後から 36 週/分娩前まで用い、分娩前後は区域麻酔の安全に合わせて調整します(UFH は半減期が短く中和でき、分娩前後で扱いやすい)。産後は静脈血栓塞栓症(VTE)のリスクが高く、血栓既往例などでは抗凝固を継続します。低用量アスピリン+ヘパリンを行っても約 2 割は届きません。難治例の二次治療は、次節でみます。
治療しても届かないとき ― 難治例への二次治療
低用量アスピリンとヘパリンを行っても、約 2 割の妊娠では合併症を防げません(第2回)。これらの女性に、有効性が確立した二次治療はありません(同ガイドライン)。ただ、次に試されている方向は見えています。第2回でみたように、産科 APS の病態の中心は血栓ではなく、補体の活性化とトロホブラスト障害でした。だから次の治療は、抗凝固をさらに強めることではなく、抗炎症・免疫・補体の側にあります。近年、その方向でエビデンスが動き始めています。
抗TNF(certolizumab)― 初の生物学的製剤の前向き試験
最も新しい動きが、腫瘍壊死因子(TNF、tumour necrosis factor)を抑える生物学的製剤、セルトリズマブ・ペゴル(certolizumab pegol)です。もともとは関節リウマチなどの慢性炎症性疾患に用いられる抗 TNF 製剤で、胎盤をほとんど通過しない構造のため、妊娠中にも使える抗 TNF 薬として選ばれました(日本では関節リウマチに承認があり、妊娠 APS への使用は適応外)。
抗 TNF を APS で試す理由は、第2回でみた病態の下流にあります。aPL が補体を活性化し好中球を呼び込んだその先で、TNF-α が胎盤を傷つける重要な実行因子(downstream effector)として働きます。実際、APS のマウスモデルでは TNF-α を欠損させるか阻害すると、らせん動脈のリモデリングと胎盤の構造が正常化し、妊娠が救済されました。このマウスでの前臨床の知見が、ヒトで抗 TNF を試すきっかけになりました。
2025 年に報告された IMPACT 試験(Branch ら、Ann Rheum Dis)は、APS でループスアンチコアグラント(LA)が陽性という高リスクの妊婦 51 例に、低分子ヘパリン+低用量アスピリンに certolizumab を上乗せした、前向き・単群・第2相試験です。無作為比較試験ではありません。妊娠 10 週以降の胎児死亡、または重症妊娠高血圧腎症・胎盤機能不全による 34 週未満の分娩を合わせた複合転帰は、解析対象 45 例で 20%(9 例)にとどまり、PROMISSE 研究から見積もった対照の 40% より有意に低い結果でした。生児は 93%、新生児死亡はありませんでした。
ただし、これは単群試験で、対照は同時並行ではなく過去のコホート(PROMISSE)です。組み入れたのは「LA 陽性の高リスク」例であって、低用量アスピリン+ヘパリンに抵抗する難治例を選んだわけではありません。さらに 61% がヒドロキシクロロキンを併用しており、certolizumab 単独の効果とは切り分けられません。胎盤を介する合併症に生物学的製剤を用いた初めての前向き試験として新しい方向を示しましたが、確証は無作為比較試験を待つ段階です(日本では妊娠 APS への抗 TNF は適応外)。
ヒドロキシクロロキン(HCQ)― 観察研究では有望、確証はこれから
ヒドロキシクロロキン(HCQ、hydroxychloroquine)は、もともと全身性エリテマトーデス(SLE、systemic lupus erythematosus)などに用いる薬で、第2回でみたように、抗リン脂質抗体のトロホブラストへの結合や補体の活性化を抑える作用が報告されています。投与が容易で副作用が少なく、難治例への初回の上乗せとして最も多く用いられ、米国リウマチ学会も条件付きで推奨しています。
観察研究では有望です。高リスク APS 194 例の多施設研究(Ruffatti ら 2018)で、従来治療に抵抗して胎児死亡を繰り返した難治群をみると、HCQ を加えた 20 例の生児率は 95.0%(19/20)で、ほかの経口治療(55.5%)より高い結果でした。高用量(400 mg)は低用量(200 mg)より生児率が高い結果でした(94% 対 79.5%)。ただし、これは後ろ向きの観察研究で、全例が低用量アスピリン+ヘパリンを併用しており、HCQ 単独の寄与は切り分けられません。そして決定的な無作為比較試験(HYPATIA など)は、本稿執筆時点(2026 年 6 月)でまだ結果が公表されていません。HCQ は「観察研究では有望だが、確証はこれから」という段階です。
免疫グロブリン大量療法(IVIG)― 単独では足りない
免疫グロブリン大量療法(IVIG、intravenous immunoglobulin)は、難治例への補助として古くから試みられ、後ろ向きの観察研究では生児率の改善が報告されてきました。しかし、難治例を厳密に定義した初の前向き試験(Kaneko ら 2024)で検証すると、様相が変わります。低用量アスピリン+ヘパリンのもとで 30 週未満の死産・早産を繰り返した難治 APS 8 例のうち、IVIG を単独で上乗せして 30 週以降の生児に至ったのは 2 例(25%)で、過去の対照と変わりませんでした。少数例の探索的な試験のため「無効」と断ずることはできませんが、観察研究で見えた有望さは、難治例を厳密に選ぶと薄れます。IVIG を単独で安易に足す根拠は乏しい――それがこの試験の示すところです。
プラバスタチン ― 発症してしまった後の追加として
プラバスタチン(pravastatin)は、本来は脂質を下げるスタチンですが、難治例で重症妊娠高血圧腎症や胎児発育不全を発症してしまった後に追加する使い方が報告されています。低用量アスピリン+ヘパリンのもとでこれらを発症した産科 APS 21 例の観察研究(Lefkou ら 2016)では、発症した時点から分娩まで pravastatin を加えた 11 例は全例が生児に至り(分娩週数の中央値 36 週)、加えなかった 10 例(生児 45%、分娩 26.5 週)と対照的でした。予防ではなく、発症した後に加える使いどころを示した点が特徴です。発症した後でも効きうる理由として、スタチンが抗凝固薬ではなく、血管内皮を保護して胎盤の血流を改善させる薬であることが考えられます(Lefkou ら)。第2回でみたように、ヘパリンが届きにくいのはこの後期の内皮・胎盤の障害――胎児発育不全や妊娠高血圧腎症につながる層――であり、プラバスタチンはその層に作用しうる点で、抗凝固を上積みする発想とは異なります。ただし、これも少数例・非無作為の観察研究で、両群の背景もそろっておらず、日本では妊娠中のスタチンは禁忌です。
補体阻害(エクリズマブ)― 劇症型には合理的、通常の産科難治例では未確立
補体そのものを抑えるエクリズマブ(抗 C5 抗体、anti-C5 antibody)は、病態の中心が補体であることを考えれば理にかなう選択肢です。ただし報告は症例レベルにとどまります。妊娠 30 週で劇症型抗リン脂質抗体症候群(CAPS、catastrophic APS)に進展した女性にエクリズマブを投与し、血栓や臓器障害を起こさずに 32 週で健常児(1640 g)を娩出できた、という報告があり、著者は「早期に血栓性微小血管症(TMA、thrombotic microangiopathy)を呈する APS では安全かつ有効かもしれない」としています(Rovere-Querini 2018)。ただし無作為比較試験はなく、日本のガイドラインも、開発中の補体阻害薬が将来よい適応となりうると触れるにとどまります(同ガイドライン)。通常の難治性産科 APS にルーチンの二次治療として用いる根拠は、まだありません。
共通する限界
これらはいずれも確証前で、「誰に、どこまで」用いるかは確立していません。難治例の治療は、いま試験が動いている領域です。
要点:低用量アスピリン+ヘパリンでも約 2 割は難治で、有効性が確立した二次治療はありません。次の治療は抗凝固の上積みでなく抗炎症・免疫・補体です。最新の前向き試験では、胎盤を通過しない抗 TNF(certolizumab)の上乗せで複合転帰が 20%(過去対照 40%)に下がりましたが、単群試験で確証はこれからです。HCQ は観察研究で有望ですが完了した無作為比較試験がなく、IVIG は単独の上乗せでは生児の改善を示せず、プラバスタチンは発症後の追加として少数例の報告があるのみ(日本では禁忌)、補体阻害は劇症型に限られます。いずれも確証前で、個別の判断に委ねられます。
次回(第4回)― 関連はあっても、治療で生児は増えない
第3回までで、APS という、第1回の「三つの見分け」――その所見は原因か、治療で生児が増えるか、変わるのは流産率という代理指標か生児という真のエンドポイントか――を最後まで通る、実質的に唯一の所見をみてきました。ただし本稿でみたように、その治療対象は「APS」という診断ラベルではなく抗体プロファイルで決まり、治療効果が確立しているのは改訂 Sapporo を満たす持続陽性の APS の範囲でした。過剰治療は、その範囲の外側――再検で消える一過性の aPL や、標準化の進まない非基準抗体――で起こります。
ここまでは、原因が特定でき、その原因に有効な治療があり、治療によって真のエンドポイント(生児)が実際に増える――この三つがそろう側の話でした。次回からは、この三つのどこかが成り立たない所見に移ります。第4回は「関連はあっても、治療で生児は増えない」――遺伝性血栓性素因と甲状腺自己抗体です。どちらも不育症の検査で「異常」として見つかり、どちらも一見すると治療できそうにみえます。血栓性素因には抗凝固を、甲状腺自己抗体には甲状腺ホルモン(レボチロキシン)を足せばよい、と。けれども、ランダム化比較試験はいずれも生児を増やさないことを示しました(ALIFE2/TABLET/T4-LIFE)。APS では成り立っていた「原因 → 治療できる → 真のエンドポイントが動く」が、なぜここでは成り立たないのか。第4回では、その理由を機序から説明します――早期の流産の多くは血栓のイベントではないため抗凝固薬が作用する対象がなく、甲状腺機能が正常なら、ホルモンを足しても補うべき欠乏がないからです。
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付録:本稿で頻出する略語
APS(antiphospholipid syndrome、抗リン脂質抗体症候群)
aPL(antiphospholipid antibodies、抗リン脂質抗体)
LA(lupus anticoagulant、ループスアンチコアグラント)
aCL(anticardiolipin antibody、抗カルジオリピン抗体)
β2GPI/anti-β2GPI(beta2 glycoprotein I/anti-β2 glycoprotein I antibody、β2グリコプロテインI/抗β2グリコプロテインI抗体)
aPS/PT(anti-phosphatidylserine/prothrombin antibody、抗ホスファチジルセリン/プロトロンビン抗体)
IgG/IgM/IgA(immunoglobulin G/M/A、免疫グロブリン G/M/A)
ACR/EULAR(American College of Rheumatology/European Alliance of Associations for Rheumatology、米国リウマチ学会/欧州リウマチ学会連盟)
LDA(low-dose aspirin、低用量アスピリン)
LMWH(low molecular weight heparin、低分子ヘパリン)
UFH(unfractionated heparin、未分画ヘパリン)
DOAC(direct oral anticoagulant、直接経口抗凝固薬)
HIT(heparin-induced thrombocytopenia、ヘパリン起因性血小板減少症)
HCQ(hydroxychloroquine、ヒドロキシクロロキン)
IVIG(intravenous immunoglobulin、免疫グロブリン大量療法)
TNF(tumour necrosis factor、腫瘍壊死因子)
SLE(systemic lupus erythematosus、全身性エリテマトーデス)
CAPS(catastrophic antiphospholipid syndrome、劇症型抗リン脂質抗体症候群)
VTE(venous thromboembolism、静脈血栓塞栓症)
TMA(thrombotic microangiopathy、血栓性微小血管症)
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「抗リン脂質抗体陽性妊娠の診療ガイドライン2026」(南山堂)
日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会「産婦人科診療ガイドライン産科編2026」
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